日常的に幻覚を見ている?

脳はこんなに悩ましい (新潮文庫)

へぇ〜そんなにちがうの?!と、ちょっと意外でした。

P248
池谷 ・・・そもそも「見る」という日常的な行為さえ、ほぼ幻覚に近いと思っています。携帯電話でさえデジカメの解像度は何百万画素以上ありますが、ヒトの目の網膜はわずか百万画素なんですよね。分解能で言えば、粗くざらついた貧弱な映像しか脳に届いていない。でも、「脳に見える風景」はなめらかで美しいですよね。脳は、少ない情報を得たうえで、「目の前にあるのはきっとこんなだろう」と想像で補っている。だから、わずか百万画素でも、こんなにスムーズでザラツキのない世界を感じることができる。

中村 過去の記憶なり情報をもとに「見た」気になっちゃっているのか。

池谷 網膜という粗末な装置から入ってきたわずかな情報を手がかりに、本当は見えていないはずの膨大な隠れた情報を補いながら、リアルな「体験」をしている。これはもう、ほとんど幻覚と言ってもいいくらいです。実際、黄色という色は幻覚です。だって目には赤と緑と青の三種類の色センサーしかないのですよ。黄色のセンサーを私たちヒトはもっていませんから、本来は感じるはずがありません。ところが、左目に赤色、右目に緑色を見せると、黄色を感じます。「外界に存在していない色」をあたかもそこに「存在している」かのように感じるのだから、幻覚そのものです。