他者がいて「私」が成り立つ

「ほら、あれだよ、あれ」がなくなる本: 物忘れしない脳の作り方

きのうの幸せについての続きの話です。

P115
 今ある自分をそのまま受け入れることが、脳科学的に見た幸せの条件です。そして、そのために他人が必要なのです。
 このことを解説していたのがメーテルリンクの『幸せの青い鳥』という物語です。
 主人公のチルチルとミチルはどこかにいると思って青い鳥を探すのですが、どこにもいません。探している途中、2人はいろいろな人に会います。いろいろな人に会って話しているうちに、だんだん自分たちのことがわかってくるのです。
 でもどこにも幸せの青い鳥はいなかったので、疲れて家に帰ってきて、諦めて寝ます。そして朝起きたら、最初から自分たちの家に幸せの青い鳥がいた、という話です。
 これは何を表しているかというと、幸せの青い鳥はあなたのところにいる、だけどそれに気づくためには、いろいろな人に会わなくてはならないということです。
 なぜいろいろな人に会わなくてはならないかというと、脳の中にあるミラーニューロンというものに自分の姿が映るからです。
 そのために、自分のことを客観的に見つめる鏡のような存在として、他人との絆が必要なのです。
 自分の欠点も長所も含めた個性というのは、他人という鏡に映る姿を見てわかるということを、『幸せの青い鳥』は表しているのです。
 ・・・
 いろいろ不満があるかもしれませんが、自分の欠点も長所もすべてありのままに受け入れて、そこから出発して努力しようと思った時に、人は幸せになるのです。

脳はこんなに悩ましい (新潮文庫)
ちょっと他の本に跳びますが、この青い鳥の話を読んでいて、私とか自意識とかって不思議なもんだなと「脳はこんなに悩ましい」に書いてあったことを思い出しました。

P178
中村 そう突き詰めていくと、「我」という自意識、「私」という概念も、よくできたイリュージョンかもしれないよね。

池谷 まさに!小さな頃から無人島に自分一人しかいなかったとしたら、心は生まれるのでしょうか。きっと生まれないだろうと思います。自分がどういう姿をしているのかもわからない。言葉をどう使うのかもわからない。

中村 誰ともコミュニケーションを取れないのだから、言葉なんてたぶん使わないだろうね。いや、そもそも自分がヒトであることを認識できないよね。

池谷 第一、「私」という言葉って、徹底的に目的志向でしょう。たった一人しか居なかったら、「私」は必要ないんですから。他人と自分を区別しなければいけないときにだけ、便宜的に「私」が必要になる、他者がいて、はじめて「私」という概念が成り立つ。