長嶋さんの凄さを物語る数々のエピソードが、第一章に「長嶋茂雄の伝説」と題して書かれています。
その中の1つです。
P53
名古屋駅の近くにあるホテルから、南に3キロ弱のところにあるナゴヤ球場までは、バスに乗って10分ほどで到着した。
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フラッシュの嵐の中、まずバスから降りてきたのは長嶋だった。ユニフォームの上に黒いウィンドブレーカーを着て、前のチャックはしっかりと留めていた。続いて打撃コーチの中畑、ヘッドコーチの須藤らコーチ陣、選手たちが続々とバスから降りてきた。
関係者入り口から球場に入って、真っすぐ廊下を突き抜けると、グラウンドに出る。番記者に囲まれながら、長嶋は足早に通路を抜けてグラウンドに姿を見せた。
その瞬間にライトスタンドからは、何とも言えないようなどよめきが湧きあがり、レフトスタンドからは歓声が巻き起こった。
と、そのときだ。
「キヨシ、今日は勝ったぞ!」
いきなり長嶋が後ろから歩いてきた中畑に向かってこう言ったのだという。
「ハッ?」
突然の長嶋の勝利宣言に、思わず中畑は聞き返してしまった。
長嶋のこうした意表を突く発言は、ともすると大きな根拠もなく、独特の第六感から生まれていると思われがちである。それが野球の采配でも同じように見られ、いわゆる“カンピューター野球”と呼ばれる所以ともなっていたわけだ。
だが、実は大概の長嶋の言葉の裏には、注意深い観察眼があり、その観察から導きだされた言葉なのである。ただ、長嶋は得てして過程を省き、結論だけを言葉にすることが多い。突然、答えだけを聞いた相手には突拍子もなく聞こえてしまうから、周囲の人々にはなかなか理解されないことも多かった。
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実はこのときの言葉にも裏付けはあったのだと長嶋は説明する。
「球場に入ったら中日の選手が練習をしているのが目に飛び込んできたんです。それを見たら打撃練習をしている選手も、守備練習をしている選手も、どの選手も緊張で動きがぎこちなかった。いつもとはまったく違う硬い動きだったんです。だから中畑にはすぐに、これなら今日は絶対に勝てるぞ、と。そう言ったわけです」
さらにすごい話が最後の方に載ってました。日本シリーズの勝敗予想です。
P301
シリーズ第1戦のミーティングでは選手にこう語りかけた。
「いいか、私には判るんだ。このシリーズは4勝2敗で我々が勝つ!もう決まっているんだ」
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1勝1敗で東京ドームの2戦を終えると、すかさずこう予言した。
「必ずまた、このドームに戻ってきますよ。第6戦がビッグゲームになる!」
最後は大手をかけた第6戦の試合前だ。
「今日は3対1でウチが勝ちますよ」
不思議なことに発言は、すべて現実のものとなった。