僕がいない町

僕がいない町

 

 ユニークな世界観だなーと思う一方で、不思議と共感のようなものが湧いてきました。

 

P32

 成功者

 

 雑誌で見た成功者の習慣

『早起き』とか『トイレ掃除』は

 とりあえず無理として

『毎日三分 空を見る』

 これならできそうと

 冬の空を見る

 すると一分くらいで

「まぁ成功しなくてもいいな」

 という気分になる

 

P56

 ナンバープレート

 

 そう言えば最近、車のナンバーは役所に届け出て、好きな番号をもらう方式に変わったと聞いた。今から役所に行くのは面倒くさいが、こういったことを、きちんとやる人間が実は成功者になる。それ以外は長屋で暮らすようになる。長屋の、ちらかった玄関に一升瓶が並び、激しく降った雨の跳ね上げた泥が、瓶にびっくりするほど、こびりついて、それを憂うつに眺めながら暮らす。その泥が毎朝嫌いだ。長屋に暮らしながら、五円玉でお城を作ったり、タバコの包み紙で船を作ったり。俺はそれをお隣に何年も習うが、ついに最後までできない。

 いつも役所に来ると自分の社会的階層が突然気になる。「こだわらずにやってきましたので下流ですが、実際のところ中身は中流と言えるかもですよ」と独りごとを言う。係の人に聞こえたのか「では中流ですね、中流のところで整理券を取って並んで下さい」と言われ、ほっとする。そんなに悪いことにはならないもんだ。昔からそうだったそうだった。

 俺はナンバープレートをもらう中流の列に並ぶ。好きな番号といっても、予めもらった用紙によると、二と〇までが固定で下二桁が自由に選べるんだって。そうかそうか、じゃあ俺はなんか二五だね。二〇二五ね。番が回ってくる頃には、すっかり上機嫌になった。俺は窓口の女性に、にこやかに言った。「二〇二五でお願いします」すると彼女は「それが寿命になりますが……」と言う。言った?言ったな。二〇二五、あと一年!

 見ると、すごい勢いでカラカサお化けが役所の中を走っている。ここは、お役所仕事の覇気のなさと、寿命を決定するという仕事柄、どうしても霊界との境界が曖昧になっているのだ。カラカサお化けは足が速い。寿命が定まってしまった以上、今やお化けの方が立場が上だ。

 寿命!ここは恥ずかしがったり、面倒くさがったりしてはいけない場面だ。後で必ず訂正の書類を出そう。今日はもう疲れた。

 役所からの帰り、自分の家の玄関にある一升瓶に、泥が跳ねてこびりついているのは、長屋の玄関が、盛り土をされずに造られて、地面と同じ高さだからだと気付いた。

 

P72

 コインランドリー

 

 湖を眺めながら

 ゆっくり考えるようなことを

 コインランドリーで

 二、三分考える

「大人になったら何になるか」

 いくつになっても考える