二万日目の誕生日

マリス博士の奇想天外な人生 (ハヤカワ文庫 NF)

 こんなこと、考えたこともなかったなぁ・・・と思いつつ読んだところです。

 数字にそれほど強くないので、目がチカチカしましたが(;^_^A

 

P207

 私は数に強い。たとえば、これはどうかな。0,1,1,2,3,5,8,13,21,34……。どういう規則で並んでいるか分かるかい。このままどんどん続けることもできる。これはフィボナッチ数列といって、隣同士の二つの数字の和が次の数字になっているというものだ。・・・なぜこんなことをもちだしたかと言えば、私はこれから数について話したいからだ。・・・数は、少なくとも食料品の買い出しと同じくらいおもしろいものだ。

 まずは一万日目の誕生日について。それは知らないうちにひっそりとやってくる。誰からもバースデー・カードは来ない。大まかに言って二七歳の誕生日から三ヵ月ほど経過したある日がそれにあたる。ほとんどの人は気づかずに過ごしてしまう。休暇を取ってもよかったのに。もったいない。私はその日、職場に出勤しなかった。かわりにサンタ・クルーズの近くにあるヌーディスト・ビーチに出かけた。私は約一〇〇億個の砂粒の上にブランケットを広げ、足先を波に一〇〇〇回洗わせながら、一一人の女性がヌード姿でサーフィンをするさまを眺めて過ごした。

 一万日目の誕生日はもうとっくに過ぎ去ってしまったって?心配ご無用。二万日目の誕生日がある。ちょうど五四歳と九ヵ月ぐらいの頃にその日が来る。正確に計算するためには自分の生年月日から起算して、うるう年も計算に入れないといけない。もうひとつ忘れてならないのは、五七歳と一三日が経過した日のことである。その日、人は誕生五〇万時間目を迎えることになる。この五〇万時間の人生の間に心臓は約二二億五〇〇〇回の拍動を打ったことになる。呼吸なら約三億回。ちなみに三億をメートルで表せば、光が一秒間に進む距離であり、ドルにすれば一九九二年、大製薬会社ホフマンーラ・ロッシュ社がシータス社に対して、私が発見したPCRの特許権を買い取るのに支払った金額でもある。この時、私は生誕一万七五二〇日目を迎えていたが、彼らはバースデー・カードすらよこさなかった。請求額を三億飛んで一〇〇万ドルくらいにして、端数を私に手渡すくらいの鷹揚さがあってもしかるべきではないか。・・・

 地球はスイス製の時計とは違って、精密な歯車で回っているわけではない。だから太陽のまわりを一周する間に、正確に三六五回の自転を行ってはいない。・・・ということは、年をきちんとした日数で割り切れないということである。・・・一年は正確には三六五・二四二五……日ぐらいになる。信じられないことだが、この数字はすでに一五八二年に算出されていたのだ。・・・天文学者たちが総出で法王グレゴリウス一三世のために計算したのである。

 この端数の意味するところは、四年に一度、一年の日数を一日多くして辻褄を合わせる必要があるということだ。これがうるう年である。しかし本当の端数は〇.二四二五……日であって、〇.二五〇〇ではない。だから・・・四で割り切れ、かつ、一〇〇でも割り切れる年はうるう年にしないことになっているのである。・・・たとえば一九〇四年はうるう年だが、一九〇〇年はうるう年ではない。しかしこれですべてが丸くおさまったわけではなく、事態はさらに複雑である。一六世紀、法王のために暦を作った学者たちにもう少し敬意を払う必要がある。・・・もし年の数が四〇〇で割り切れるなら、今度はその年をうるう年としたのである。・・・二〇〇〇年がそれに当たる。例外がある。もし年の数が四〇〇〇で割り切れるなら、その年はうるう年にならない。これが規則である。・・・

 この規則はグレゴリオ暦と呼ばれるものである。・・・

 この暦に従っていけば、うまい具合にこれまで生きてきた日数を数えあげることができる。私はそれをすすめたわけだ。・・・