もりあがれ!タイダーン

もりあがれ!タイダーン ヨシタケシンスケ対談集 (MOE BOOKS)

 ヨシタケシンスケさんと11名の方の対談集。

 お話ももちろんですが、イラストもとても面白かったです。

 

こちらは翻訳家の岸本佐知子さん。

P40

―今回は、ヨシタケさんが前々から大ファンだという岸本さんと、念願かなっての初対談です。

ヨシタケ 岸本さんのエッセイは、全部持ってます。あまりにファンすぎて、しゃべれる気がしないんですけど(笑)。

岸本 ヨシタケさんの作品を改めてまとめて読んだら、僭越ですが、似たもの同士感がすごくあって。基本ちょっとネガティブで、考えをどこまでもつきつめていくじゃないですか。普通の人って、どこかで考えるのをやめると思うんですよね。多分ヨシタケさんも私も、そういうストッパーがない(笑)。

 ・・・

―岸本さんはヨシタケさんの作品で、何か他にお好きなものは?

岸本 『あつかったら ぬげばいい』がすごく好きです。ほしいものを買ってもらえないときに、「いい子になりましょう」じゃなくて「いいこのフリをすればいい」っていうのがね(笑)。全部が割とその場しのぎの解決法、でもそれでいいじゃないかっていう気づきがありました。何て言うのかなあ、人にできることなんてタカがしれてるっていう、ある種の諦念みたいなのがあって。「いい子になりましょう」って上から言ったって、そんなに人って変われるわけないんだから、「とりあえずいい子のふりをする」っていう、下からの、形からの積み上げだって、結果は同じことなんじゃないかなって。

 私、最近、この年になったらどうせもう自分の根本は変われないんだから、表面だけうまいことやればいいじゃないかって考え出して(笑)。だから、この本はジャストミートで。根本は変えられなくても、何か表面だけ変えるって意外といいぞ、みたいな。絵本によくある「人に優しくしましょう」とか「いい子になりましょう」とかの教条的なところ、説教臭さのないところが、もう本当に素晴らしくって。

ヨシタケ ああ、うれしいなあ。

岸本 あと、「あしのうらを じめんから はなせばいい」っていうのが、やってみたら「本当にそうかも⁉」って思いました(笑)。

ヨシタケ 実はそのネタは結構昔から思っていて。「大人になることって、やっぱり地に足がつくことなんだな」って、文字通り。子どもたちって、足がぶらんぶらんすることが多いんですね。世の中は大人サイズにできてるので、椅子でも大人は足がつくようにできてるけれど、子どもにはまだ高かったりして、大体ぶらんぶらんしてる。逆に言うと、「ぶらんぶらんしさえすれば、子どもに戻れるんじゃないのか」って。

 

こちらは作家のブレイディみかこさん。

P132

ブレイディ 私が好きな『迷子の魂』という絵本があるんですが、男が魂をなくして自分が誰なのかわからなくなってしまったという説明からはじまって、あとはずうっと絵なんですよね。読み聞かせするときにどうするんだ、っていう(笑)。

 やっぱり、会話するしかないんですよ。イギリスでは、保育園で絵本を読んでいるときに、子どもたちが「そのクマ、なんでそんな顔してるの?」とか「なんでそこ、ドアが開いてるの?」とか、いろいろ言ってくる。そこで日本だと、先生が「一度最後まで読ませてね」「あとでみんなでお話ししようね」ってなるんですけど、イギリスだと、「確かになんでドアが開いてるんだろう?2ページ前で閉めてなかった?」とか言って、結構そこから雑談になっていくから、読み終わらないこともあるんです。会話の材料として、絵本を使っているんだなっていう。多分、ボトムアップってそこからすでにはじまっているっていうか。

 園や学校で、日本だと子どもたちは体育座りで膝を抱えるじゃないですか。イギリスでは、膝を開いてあぐらをかくんですよ。保育園でも「お話を聞く座り方をしなさい」が「Open your knees(膝を開きなさい)」って言うんですよ。日本と真逆ですよね。で、それってやっぱり、ものが言える姿勢なんですって。絵本の読み聞かせを聞いているときにも、先生に何か指摘して会話ができるっていう。「とにかくお話を聞きなさい」じゃなくて、意見を言わせるっていうところが、やっぱりそこから違うのかなって。

 もう1つ私の思い出の絵本が、『だるまさんが』。これはまさに先ほど話題に出た、子どもってなんかわけわらなくても喜ぶっていう例ですね。子どもが小さい頃、日本に里帰りして、自治体の子育てセンターのようなところで絵本を読もうと思っても、うちの子どもは日本語がわからないんですよ。でも『だるまさんが』はすごく大ウケするんです、「どてっ」とか「ぷっ」とか、大笑いしてて。日本人で国際結婚の友人は、みんな言うんですよ、「日本語は全然わからないうちの子でも、『だるまさんが』だけはウケる」って(笑)。あれこそ本当に、よくわかんないけどおかしいんでしょうね。もう、めっちゃ大笑いしてました。

ヨシタケ そう、『だるまさんが』は、作者のかがくいひろしさんが元々特別支援学校の先生で、言葉がうまく発せない子たちを喜ばせたいって思いからつくっているので、納得ですよね。世界中どこに行っても、みんな笑える。

ブレイディ すごい本ですよね。本当に有名ですよ、日本語をしゃべれない子どもを持っているお母さんお父さんの間では。あの絵本は間違いなくウケますから。