しあわせをつなぐ台所

しあわせをつなぐ台所

 台所を通していろんなお話が聞けました。

 こちらは那須トラピスト修道院

 

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 栃木と福島の県境、那須連山の麓に私たちの修道院はあります。「祈り、働け」のモットーのもと、生活は毎日七回のお祈りと労働、読書から成り立っています。

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 修道院に入るときには、それまで持っていたすべてのものを置いていきます。そこには人間関係や家族も含まれます。昨日までの自分を捨てて、新しい環境の中で日々生まれ変わって生きることを目指すのです。

 なぜこの生活を選んだかは、一人ひとり背景が異なります。でも共通して言えるのは、修道生活を始めれば等しく、心がこれまでになく自由になるということです。質素でも十分な食事、与えられた労働を日々繰り返す暮らし方は、自分に本当に必要な時間とは何かを研ぎ澄まします。無駄も余剰も贅沢もない、究極のシンプルライフと呼べるのかもしれません。

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「ここは、お年寄りもピカピカして、生き生きしている。皆、現役ねぇ」。

 月に一度、東京から聖書を教えに来てくださるシスターがよくおっしゃいます。修道院には定年がありませんから九十歳になる最年長のシスターもガレットを袋に詰めたりと自分のしごとをもっていて、今も皆と働けることが、心からの喜びなのですね。

 ここにいると、労働とは神やまわりにさせていただいているのだと気がつくようになってきます。感謝の気持ちと、人の役に立てたという充実感。それがあると、今日という日をすっきり心地よく終えられます。

 台所でのしごとなら、調理や掃除、後片付けをするときも、どこか心の隅で「させてもらえている」と思えたら、何か苦しいことがあったときにすこしは変わる部分があるのかもしれないと思います。満たされた実感で今日一日を締めくくる。そうしてまた、新しい自分を生きれば良いのです、明日から。