あそび

好きに食べたい

 こちらは「あそんでいます」というタイトルのエッセイで、楽しそうな感じがダイレクトに伝わって来て、こちらまで楽しい美味しい気分になりました(^^)

 

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 フランス料理を、たった数時間習っただけなのに、毎日の台所と食卓が急変してしまった。

 まず一斉に大掃除をした。調理器具がさっと取れるように、シンプルな配置に変えた。とにかく全体的に整理整頓された。「やればできる」と自分の肩を自分でたたきたいほどだ。

 さらに、包丁を研ぎ石で研ぐようになった。ナマモノを非常に慎重に扱うようになった。塩加減に細心の注意を払うようになった。洗い物をこまめに迅速にするようにまでなった。冷蔵庫の中は、これまでにないほど整然と、すっきり片付き続けている。できれば今後、料理を供する直前にお皿をあたためる方法も工夫したいなどとも思うようになった。

 どうですどうです。プロの世界を垣間見ることによって、何かが変わってしまった。やる気スイッチ・オンってやつでしょうか。いや、自分の感覚だと、顔を洗って出直したというような気分。改心した、というのが近い。ふだんから家事をしっかりなさっている方ならあたりまえのことばかりなのだろうが、わたしはできていなかった。整理整頓され、掃除が行き届いた台所で料理をするのは、なんと清々しいことなのか。暮らしってどこまでも進化していけそうだとまで思ってしまう。

 先日は、そんな、自分比で超絶に整った台所で、ふと天ぷらを揚げた。今までは「天ぷら揚げますぞ」とはりきらないと揚げなかったが、場が整っているおかげで、瞬時のふとした宇宙タイミングで軽々と揚げることができた。自分的タイトルは、「夏の終わりを感じる野菜天ぷら定食」。揚げたのは、ナス、シソ、ゴーヤー、トウモロコシ。夏野菜たちへの挽歌なのであります。それにしても、トウモロコシの天ぷらほど、至福感の高い食べものってないんじゃないだろうか。甘くて、ほろほろと崩れ、熱々を頬張る感激ったらすさまじかった(ちなみにトウモロコシだけの天ぷらって、子どもの頃は食べていなかった気がする)。

 さらに、気分がよくなって、最後に、モロヘイヤ、タマネギ、干しエビで、かき揚げもつくった。完璧なおいしさだった。調子に乗って、天ぷら茶づけにもした。だし汁を用意するところまではいかず、ほうじ茶に、塩と醤油を垂らしていただいたが、「むー」といいながら垂直に後ろに倒れてしまいそうなほど美味だった。全国から抽選で三名様を我が家にお招きしたいほどだった。これに、もずく酢、お味噌汁、ごはん、が、ある九月のわたしの夕食だ。

 取材以来、ひとり台所で、ただただ、あそんでいるような感覚が続いている。