リセット発想術 常識のほぐし方

リセット発想術 常識のほぐし方 (河出文庫)

 最初こども向けに書かれた本だったそうですが、いくつで読んでも、ふむふむとなるかと・・・

 

P26

 僕の知り合いに、川村元気さんという映画プロデューサーがいます。・・・彼から携帯電話にまつわる、こんな話を聞いたことがあります。

 あるとき、仕事先で携帯電話をなくしてしまい、「しまった!」と大慌てしたそうです。・・・

 それで、とにかくどこかに電話をしようと思ったわけですが、覚えている電話番号がひとつもない。それこそ、会社の電話番号すらも覚えていない。すべては携帯に登録されているからですね。

「さて困ったな」と思いながら、仕事相手にも連絡がとれないまま、とりあえず、次の打合せ場所に向かうために電車に乗ったそうです。

 川村さんの不安な気持ちに追いうちをかけるように、今度は雨が降ってきました。「ああ、傘も持っていないし、今日は何て日なんだ」と落ち込んでいると、しばらくして雨が小降りになってきて、ふと外を見たら、ものすごくきれいな虹が出ている。「うわあ、きれいな虹だなあ!」と思って、パッと車内を見回したら、全員が携帯に目を落としていて、虹に気づいている人はひとりもいません。

 その瞬間、「自分は携帯を持っていることによって、世の中にあるきらきらしたものを見過ごしていたのかもしれない……」と、彼は思ったそうです。そしてこれがきっかけとなり、『世界から猫が消えたなら』というヒット小説が生まれた。

「あのとき携帯をなくさなかったら、虹を見なかったら、虹の美しさに気づかなかったら、その小説はできていなかったんです」と、川村さんはしみじみ言っていました。

 

P42

 NHK合唱コンクールで、小学生の部の課題曲として、僕が作詞した嵐の『ふるさと』が選ばれたことから、この合唱コンクールを広報する番組に携わったことがあります。

 そこで「歌の上手い、きれいな声の人だけを集めても良い合唱にはならない」ということを聞きました。高い声や低い声があったり、きれいな声があればガラガラ声もあったり、いろんな声が集まってひとつのハーモニーが生まれ、人の心を揺さぶる合唱になるというのです。僕はそれを聞いて、「なるほど」と感銘を受けました。

 それはつまり、単にムダを省いたり、利益や効率ばかりを追求してしまうと、個性という光り輝く宝物を見つけることが難しくなってしまうということ。

 

P48

 ・・・「もしも、コンビニが居酒屋だったら……」という企画があっても面白いかもしれません。

 僕がいままででいちばん楽しかったコンビニ体験についてお話ししましょう。それは、北海道に行ったときのことでした。

 ホテルで食事をしたあと、「ちょっと外に飲みに行きましょうか」という話になりました。ホテルの人が「このあたりには何もないですよ」と教えてくれたにもかかわらず、「いや、きっとどこかあるはず。頑張って探します!」と言い張ってスタッフに運転をしてもらって車を走らせたのですが、何十キロ走っても本当に何もありませんでした。

 しばらくすると、あるひとつの小さな灯りを見つけ、そこに向かって進むとコンビニが1軒ありました。「酒」という看板があって、「もういい、ここにしよう!」と言ってそのコンビニに入っていき、店長さんに「ここで飲んでいっていいですか?」とたずねると、「お客さん来ないからいいですよ」と。

 そこからは、本当に楽しい時間が始まりました。

 棚からビールやおつまみを取って、「はい、ビールとおつまみ」などと言いながら会計をして、しまいには、「店長、おでんちょうだい。じゃあ、これとこれ」なんて言いながらおでんを食べて、結局何だかんだ4時間くらいそのコンビニにいました。それはもう夢のような場所なわけで、コンビニが心地よい居酒屋に変身したのです。

 それだけではありません。

 僕たちの会話が、ある芸能人の話題になったときです。

「あれ、そう言えばどうなったんだっけ?あの芸能人。ほら、このあいだ話題になっていたでしょ」などと話しているときに、「あ、ちょっと待って。そこに週刊誌があるから買ってくるよ」と週刊誌を見ながら、「そうそう、これこれ」と盛り上がりました。

 そして、飲んでいるうちにだんだんまたお腹がすいてきたので、「じゃあ、そろそろシメのラーメンでも食べようか」と、カップラーメンにお湯を入れて食べたあとに、「最後はやっぱりデザートでしょ」とアイスクリームを頬張ったときのあの幸福感は、今でも忘れられません。