天使への扉

天使への扉 (知恵の森文庫)

 フジ子・ヘミングさんの本を読みました。

 全然違うのに、昨日ご紹介した佐野洋子さんと、どこか印象がかぶるのはなぜだろう?と思いました。スケールの大きさでしょうか・・・?

 

P35

 私は、これまでいじめによく耐えてきたと思います。

 子供の頃は、私が外国人の子供で、体が大きいということで、いじめられました。留学でドイツにいた頃は、今度はドイツ人やドイツ在住の日本人にいじめられて、結局、どこへ行ってもいじめられて生きてきたようなものでした。だから今では逆に、人から意地の悪いことを言われてもそれが痛快で、むしろ自由で、孤独が気持ちがいい。平気、平気、と思えるようにさえなってしまいました。

 帰国後、私が世間に名前を知られるきっかけとなったテレビに出演した時に、番組のスタッフの人に、「あなたは愛国心がないのですか?」と聞かれたことがあったのですが、「ありません」と私はきっぱり答えました。

 どこの国に愛国心を持ったらいいのか……、日本は私に、国籍どころか永住権さえくれないのに、何が愛国心だっていうのかしら……。

 だから、私は、「どっこの国も嫌いだし、どこの国も好きだし、どこの国にも属してない。ずっと私は天国に属している」と答えるようにしています。

 

P41

 私は母から、朝から晩まで「おまえは馬鹿だ!」「おまえはダメだ!」って言われ続けて育ったせいで、大人になってからもずっと自分に自信が持てませんでした。

 だから、私は、天才的な一面もあるけれど、実はイディオット(=お馬鹿さん)なのだと本気で思っていました。

 ところが、ウィーンで聴覚を患い、演奏活動ができなくなってから、ピアノの教師の資格を取るためにスウェーデンに行ったのですが、その時、知能検査を受けたのです。当時、私は四十歳。試験を一緒に受けたのは、二十八歳から五十歳ぐらいまでのそれなりに社会的な立場がある人たちばかりでしたが、その中で私の成績がなんと一番だったのです。「えっ?私が一番?私は今まで何をしてたんだろう……」と、実は、自分が思ってきたほど馬鹿ではなかったんだと、その時初めて思えました。

 この時ばかりは、私をまったく褒めもせずに育てた母を、少し恨みました。「馬鹿だ!馬鹿だ!」と言われて育てば、誰でも自信をなくして萎縮してしまいますから、罪深いですよ、本当に……。

 

P49

 夢には二種類あります。眠っている時にみる夢と、起きている時にみる将来の夢。でも、私の場合は、ちょっと変わった夢もみていました。

 そもそも私は、有名になってお金持ちになりたいというような夢は全然持っていませんでした。それよりもダイヤモンドのような綺麗なガラス玉を安いお店で買ってきて、それを身につけて、「今私はダイヤモンドをつけているんだ」と想像して満足していました。そのガラス玉ひとつで、お金持ちの貴婦人になったような気分になれたのです。そして、大好きな猫たちに囲まれて、部屋の中に優雅に座って……。私はそういう夢を描くだけで幸せな気分に浸れるような人間でした。そして、周囲の人はそのガラス玉を見て、「すごいわねぇ、あなた、それダイヤモンド⁉」なんてよく言われていたものでした。

 でも、私の本当の夢は、有名になれなくてもいいから、私の音楽を聴いてくれる人の前でピアノを弾くことでした。だから、今こうして多くの人の前でピアノを演奏しているのは、神様に導かれていることのように思います。

 

P131

 私は、粘り強くて、しつこい人間なのかもしれません。どんな状況になっても、決して諦めなかったですから。

 それに、私の場合はこの世でたとえ認められなくても、そのままピアノの才能を天国へ持っていけると信じていました。聖書に書いてあります。「天国で大いなる者と呼ばれるであろう」(マタイ伝五章十九節)と。

 私はそれを信じて、今まで一生懸命やってきました。まさか、こんなに自分が有名になるとは夢にも思っていなかったので、かえって、これで本当に良いのかなと心配になってしまいます。だから、お金が入っても、なるべく気の毒な人にたくさん寄付をして、天国にたくさん貯金をするようにしています。いつもです。少しでも収入を得たらすぐに寄付をしています……。だから私の洋服なんて古い物ばかりです。

 私は、ドイツで美味しくない物ばかり食べて、ストーブも焚けないこともありました。でも、耳は聞こえなくなっても、大病しないでここまでこられたのは、やっぱり神様が助けてくださっていたのだと思うわ、ここまで来るのにね。