結婚への道 迷宮編

岡村靖幸 結婚への道 迷宮編

 面白かったので、続編も読みました。

 

こちらは桃井かおりさん。

P10

岡村 パートナーの方とはいつ出会われたんですか?

桃井 9歳のときですね。

 ・・・

岡村 ということは、子どもの頃からずっと会ってなかった?

桃井 35年は会ってないですね。

岡村 どうやって再会を?

桃井 アン・ルイスが連れてきたんです。当時彼は、アメリカのレコード会社の社長だったから、契約のことで私が困っているからと、アンちゃんが連れてきてくれて。・・・

岡村 じゃあ、そこで「おひさしぶり!」と35年ぶりに初恋の彼と会って再びときめいてしまったと?

桃井 私、いままでああいう人を好きになるとは思わなかったのね。

 ・・・

 やさしい人なんです。とにかく差別がない人。たとえば、会社をリストラされてしまった人とか、社内で郵便物を配るメールボーイとか、そういう人たちをしょっちゅう家に招いては仕事の相談に乗るんです。クリスマスやお正月になれば、大勢の仕事仲間もどんどん集まってきて。中には、「僕がつくりました」ってロウソクをプレゼントされたから職人さんかしらと思えば有名企業の会長さんだったり(笑)。私は、人にやさしくないし、信用されたこともないけれど、彼はそういうふうに生きてきた人なんです。大勢の人に愛され信用されて生きてきた。それは尊敬すべきものだし、そういう人を素敵だと思い始めたのは確かです。

岡村 人間ってこんなに誠実だったの?こんなに裏切らないものなの?と感じさせてくれたと。

桃井 初めてだったんです。そういう人と出会ったのは。それまで、親も監督も信じたことがなかったので。

岡村 親も監督も信じない。

桃井 私は俳優なので、撮影に入ると、監督は親よりも大事になるし、恋人よりも相手役が大事になるんです。でも、信じたことはない。そういう意味で初めて人を信じることができたのかも。

岡村 長い人生で初めて信じることのできる人と出会えたと。

桃井 私、付き合うのなら、すっごく嫌われるか溺愛か、どっちかがいいなとよく思っていたんです。いちばん強いエネルギーで付き合ってくれるのがいいなって。でもいまは、なんかこう、子どもを生んだみたいな気分なんですよ。

岡村 無償の愛を感じ、やさしい気持ちになれるということ?

桃井 ていうか、絶対に浮気できないですよね。

岡村 なぜですか?

桃井 絶対に裏切れない存在だから。彼を裏切るなんてそんなの人間じゃないって思うもの。だから、大事にしたいんです。彼が初めてなんです。別れる気がしないのは。

 

こちらは高橋源一郎さん。

P73

高橋 ・・・いまの奥さんと付き合いだした頃、「音楽は何を聴くの?」って聞いたら、彼女の挙げる音楽を何ひとつ僕は知らなかった。そしたら「ダサッ」って(笑)。

岡村 あはははは(笑)。

高橋 僕にもそれなりに蓄積はあるんです。でも、空白の部分がたくさんある。その空白地帯のカルチャーについて、彼女が薦めてくれるものは全部よかった。ラップも教えてくれたり、岡村ちゃんも教えてくれた。彼女のセンスはいいなと思いました。音楽と漫画とファッションについては、彼女のレクチャーを聴こうと。

岡村 楽しそうだなあ。自分の知らないことを教えてくれるなんて。

高橋 去年(15年)7月に亡くなった鶴見俊輔さんという僕の大好きな哲学者がいるんですが、彼は親しい友人に「若い人には自分にないものがあるんだから、若い人の言うことはきちんと聞きなさい」と言われて、それを座右の銘にしていたんです。自分よりもはるかに年下の人がやってきても、必ず自分にないものを持っているんだと。僕はそれで結構目からウロコが落ちて、「な~んにも知らないのね」と言われたら「じゃあ教えて」と素直に言えるようになりました。そうやって若い人の話を聞くと、新しい発見はとても多いんです。

 

こちらは現代美術家カップルの会田誠さんと岡田裕子さん。

P81

岡村 ・・・結婚当初、会田さんは注目されてはいただろうけど、経済的にはまだまだ不安定だったでしょ?

岡田 お互いに貯金はゼロでした。

会田 お金がなかった話をしますとね、事実、そうではあったんですが、僕は全然そういう記憶がなくて。彼女が子どもを産むときも、確かに、スッカラカンではありましたけど、もっと前の独身時代は、消費者金融で借金をしまくってましたから。だいたい、借金がなかったことがないんです、僕は。個展を開くためにはどうしてもお金がいるんです。まず、作品を作るための材料費がかかりますし、制作をするためには時間が必要ですからバイトもできない。そうすると、どうしても借金をしないと作品ができない。だけど、将来の不安はなかったんです。なんとかなるだろうと僕はずっと思っていて。

岡田 私もそう考えてました。やりくりは大変だけど、漠然と、なんの確証もないけど、大丈夫だろうって。

 

こちらは作家の本谷有希子さん。

P113

本谷 ・・・夫に対して愛というのはピンとこなくて。愛してる対象というよりは、いちばん近くにいる人っていう感覚。

岡村 自分のいちばんの味方?

本谷 いえ、味方でもなく。ただ単純に「いちばん近くにいるから、この人を選んだんだな」って。夫もそう言っているんです。結局、なぜこの人なのかというのは、どんどん理由がなくなっていくんです、結婚後は。そうすると、「近くにいるから一緒にいるんだよね」っていうこと以上に腑に落ちる理由はないんです。

岡村 近くにいるから、ねえ……。

本谷 私が憧れる結婚観みたいなものがあるんですね。それは、誰かに「なんで離婚しないの?」って言われたときに「えー、だってひとりでごはん食べるの寂しいじゃん。あはは」って答えたい、というものなんです。

岡村 ……………はい?

本谷 あはははは(笑)。だから、それが私にとっての結婚のすべてのような気がしてるんです。なんで結婚したの?なんで離婚しないの?って聞かれたときに言いたい。「だってひとりでごはん食べるの寂しいじゃん。あはは」。「あはは」まで込みなんですけど(笑)、それが「結婚だ」という感じがしていて。

岡村 なんだかものすごくサラッとしてるなあ。「寂しいじゃん」っていうライトな感覚でふわっとさせることが理想、ということなんですか?

本谷 結婚というものが大したもののような気がしないんです。しかも結婚は、しょせん人間がつくった制度だからそのカタチにも意味はなくて。ただ単に、ごはんをひとりで食べるのがイヤだから、そのために生まれた約束。それが結婚。結婚なんてそんなもの、っていうイメージ。