オンナの奥義

オンナの奥義 無敵のオバサンになるための33の扉

 似てるところもあり、正反対なところもあり、のお二人のおしゃべりを横で聞いてるような、気楽なおもしろい本でした。

 

P109

大石 仏教の世界では、人生は修行だっていうじゃない。まったくそうだと思うの。シェイクスピアの「人間がオギャーと泣くのはな、この世に生まれ出たことが悲しいからさ」って台詞も大好きよ。見事な台詞だわ。

阿川 そうですか?私は「違うだろが」って思ってる。生まれたての赤ちゃんが泣く理由は単に酸素をたくさん取り入れたいだけなんじゃないの?と思ったりします……。すみません(笑)。だから、大石さんや渡辺えりさんみたいに、生や死を真剣に考えている人に会うたび、「立派だな。それに比べて私って、なーんにも考えてないな」と反省します。

大石 何言ってんですか、反省なんかしてないくせに(笑)。

阿川 生きるってことは、おいしいものを食べたとき、人を好きになったとき、その相手も自分のことを好きだと言ってくれたとき、「キスした、キスした、キスしたーっ」のときみたいに、「ああ、幸せだ」と感じる瞬間の繰り返しだと思ってる。もちろん、その間に苦しいことや辛いこともたくさんあるんだけどね。

大石 苦しいことの間に楽しいことがあると思うか、楽しいことの間に苦しいことがあると思うかの違いね。

阿川 昔、中学のときかな。試験の帰り道、「試験が終わった」という解放感の中、ガタンガタンと都電に揺られながらボーッとしていたら、車内にものすごくきれいな光が差し込んできたの。「ああ、なんて幸せな光なんだろう」って泣きそうになった。こんなささやかなことで人間は幸せになるんだなと、中学生ながらしみじみ感じた覚えがあるんです。

大石 なんて感受性の鋭いお嬢さんなんでしょう。

阿川 試験勉強とか徹夜とかで我慢したり辛かったりしたぶん、普段どうでもいいことが幸せに思える。そんなことの繰り返しなんじゃないかなって思ったわけですよ。だから、私は総合的にみて「人生は、楽しいこと、楽しいこと、ときどき苦しくて、また楽しいことがあって、また泣いて、なぐさめられて喜んで、ちょっと落ち込んで、また楽しくなって喜んで」だと思っています。

大石 私の感覚はまったく逆よ。「苦しいこと、苦しいこと、苦しいこと、悲しいこと、ちょっと楽しくなって、また苦しいこと」って感じなの。

阿川 へえ、そうなんだ!

大石 似たようなことだけど、かなり違うとも言えるわね。

阿川 同じようなことでも、その受け止め方が違うということはないですか?大石さんって、そんなに「悲観主義」でしたっけ?

大石 これって悲観主義なの?だったら、かなりの悲観主義者よ。

阿川 じゃ、私はかなりの楽観主義者だな。もうすでにお気づきでしょうけれど(笑)。

 ・・・

大石 ・・・総合的にみて、9割が辛くて苦しいこと、楽しいことが1割って感じ。その割合は、生まれてこの方、ずっと変わったことがないから。

阿川 私、真逆です。もちろん、悲観主義的な面もありますよ。「あぁ、なんでこんな仕事引き受けちゃったんだろう。全然書けないし、明日までにこれとこれをやらなきゃいけないのに。もう嫌だ。悲しい、辛い、苦しい」って悲観する。でも、しばらくしたら「考えてみたら、全体的に私の人生、幸せなほうだな」って思って、「よし、まず寝ようか」って布団にもぐりこむ(笑)。だから、短期悲観主義で長期楽観主義なんです。

大石 私だって、よーく考えたら、全体的に人生は幸せなほうだなって思ってるわよ、思うけど、やっぱり実感としては「生きてることは虚しく、辛い」というほうが大きいの。

阿川 でも、基本的に私は大石さんほど苦労してないからね。

大石 お幸せでいいじゃない。

阿川 すみません。

大石 でも、お幸せでいいなと思う一方で、きっと本当のところは大変なんだろうな、って勝手に想像しちゃうの。やっぱり私、重症の長期悲観主義ね(笑)。