神と人をつなぐ宇宙の大法則

神と人をつなぐ宇宙の大法則

 お二人の対談形式なので、難しい話も読みやすかったです。

 

P16

稲葉 ビブーティーやアクセサリーなどを出す物質化を、「トリックだ」「マジックだ」という人は多いです。でも、私は実際、少なくともビブーティーはこの目で見ましたからね。マジックじゃないと思っています。私には論理的な説明はできませんけど、そんなことはいくらでもあり得ることじゃないかと思うからです。

 ・・・

 私が尊敬している吉野の山口神直先生も、実際に歩いていて、富士山の頂上に行きたいと思ったら、もう体ごと行っていたとか、白山の頂上に行こうと思った瞬間、行っていたとかおっしゃっています。山口先生がウソをいうことは絶対ないと思います、人間的に。

 ・・・

 そういった不思議な現象について、ぜひ先生のような真っ当な物理学者から、理論的に説明していただければありがたいなと思っているんです。

保江 わかりました。ただ、説明するには、この世の中の成り立ちからいわないといけないんですけどね。

 ・・・

 ・・・137億年前に、宇宙はどうやって生まれたか。さまざまな説があるんですが、通常は「何もないところからポンと生まれた」と、非常に原始的なイメージで語られます。・・・

 「そんなわけないだろう」「何かあっただろう」と、誰でもみんな疑うんですが、どうしようもないからそこはほうってあるんです。

 ・・・それで、定説ではないけど、僕がいま最も信じている説を話します。

「もっと前」に何があったかというと、そもそももともとは「完全な秩序」があった。完全な秩序のみがある状態。それがずーっとあったんです。

 ・・・

 ・・・では、そこに何が起こって宇宙が生まれたか。それを話すために、ちょっとノーベル賞の話をします。

 ・・・

 ・・・南部先生のノーベル賞受賞理由は「自発的対称性の破れ理論」。ちょっとむずかしい名前ですけど。

 ・・・どういう話かというと……。

 ・・・対称性というのは、先ほどいった「完全秩序」のことです。対称性というのは、物理学では「きれいな」という意味なんです。

 ・・・

「〝自発的〟対称性の破れ」とは、「対称性、つまり、完全秩序の状態は、ほうっておくと必ず破れる」という意味です。自発的に。おもしろいでしょ。

稲葉 「自発的」は「破れ」にかかるんですか。

保江 そうです。名前は「自発的対称性の破れ」ですが、意味は「対称性の自発的破れ」です。対称性がまずあって、それが自発的に、勝手に、あるとき突然、破れちゃう。

稲葉 だったらそういうふうに書かないと、「自発的」が対称性にかかるように誤解しそうですね。

保江 ああ、そうか。物理学者はそのへん無頓着で、用語を日本語にするときに、「自発的対称性の破れ」としちゃったんですよ。・・・

 ・・・

 ・・・完全調和っていうのはね。きれいだけど、もろい。だから、ほっとくと、必ずいつか、勝手にこわれるわけです。ただ、それは全部ではなく一部です―という理論を、南部陽一郎先生が出された。これを宇宙以前の完全調和があった状態に当てはめると、完全調和のどこかが、あるとき忽然と破れる。一部がポロッと破れる。その、ポロッと破れた場所の一つが、この宇宙なんです。

 ・・・

 調和のみは「無」に等しい。ところが、完全調和が自発的に破れた場所がポコンとできると、そこは認識できる。見えるようになるんです。それがこの宇宙の始まりです。

 ・・・

 ・・・南部先生が調べたら、対称性がこわれた場所には、こわれた対称性を復旧しようという作用が働き始める。つまり、完全調和に戻そうとする動きが生まれるんです。

 それが、いまのこの宇宙の根源的な原理です。・・・この宇宙がこれからどうなるかというと、「再び徐々に完全調和に向かっていく」。これは確かなんです。

 ・・・

稲葉 完全に修復されるまでの期間は、どれぐらいなんですか。すでに137億年かかっているわけですが……。

保江 それは、最初にこわれた程度によりますが、残念ながらわからないんです。というのは、いったいどの範囲で、どの程度の規模に自発的にこわれたのか、推定できないからです。まだ、われわれはこの宇宙の全貌をつかんでいないんですよ。

 

P47

保江 ・・・もう一度おさらいしますと、もともとあった完全調和の一部が自発的に破れた。それで生まれたのが宇宙です。

 ・・・

 じゃあ、破れる形態はどうなのか。・・・

 まず、いちばん簡単な破れは、点のようなそこだけの破れ。これを「0次元の破れ」といいます。まあ、名前だけです。そう呼ぶということ。次に簡単な破れは、1方向に破れた曲線のような、髪の毛のような破れ。これを「1次元の破れ」といいます。

 次に簡単な破れは、2方向に同時に破れて面になった破れ。これを「2次元の破れ」といいます。次に簡単な破れは、3方向に同時に破れた立体的な破れ。これを「3次元の破れ」といいます。

 という具合に、4次元以降も続きます。・・・

 ・・・いろいろな破れができるのですが、いちばんできやすいのはどの破れだと思いますか。

稲葉 簡単な点の破れや線の破れですか。

保江 常識的に考えるとそうですよね。・・・

 ところが、実は、立体的な3次元の破れがいちばん多いんです。なぜかというと、これは物理学ではなくて数学の確率論です。・・・

 ・・・確率論では、フランスのポアソンという数学者が発見したポアソン分布という確立法則に従います。

 ・・・

 ・・・圧倒的に多いのが3次元の破れです。

 湯川秀樹先生が晩年に取り組まれたのがこの研究で、湯川先生は完全調和の破れを「素領域」と名づけられました。・・・

 ・・・

 たとえるなら、素領域はビールの泡のようなもので、もともとのビールの液体部分が完全調和にあたります。

稲葉 そのたとえはわかりやすいです(笑)。

保江 先ほど、完全調和が破れたところには調和を復活させようとする力が起こるといいました。その力は、それぞれの素領域の中にも生まれているわけです。その力、エネルギーですね、それが「素粒子」です。

 素領域の中にある復旧しようとするエネルギーを、われわれは素粒子と呼んでいるのです。

 ・・・

 そのエネルギーである素粒子は、素領域から素領域へと飛び移ることができます。その飛び移っている現象を見て、われわれは「この3次元の広い空間を物質が移動している」と認識するんです。

稲葉 素粒子は絶えず目まぐるしく飛び移っているわけですね。

保江 そうです。

 それで、いよいよというか、ようやくというか、サイババの不思議な現象につながる話をします。

 ・・・

 素領域には1次元、2次元、3次元、4次元……といっぱいあるけれど、われわれには3次元の素領域しか認識できないといいました。認識はできませんが、考え方は意外と単純です。たとえば、6次元は「3次元が二つ」と考えればいいんです。もちろん、2次元+4次元でもいいのですが、ここではわかりやすく「3次元+3次元」としておきます。

 つまり、6次元が一ヵ所にあれば、それは3次元が二ヵ所にあるのと同じことです。こじつけているわけではなく、これは数学的に証明できます。とすると、稲葉さんがおっしゃったサイババや山口神直先生の瞬間移動も、これで説明できます。

 ・・・

 そういった人たちは、ふだんは3次元の素領域にいます。ところが、なんらかの手段で、3次元のすぐそばにある6次元の素領域に入ることができるわけです。6次元は3次元が2個なので、一方の3次元が富士山の麓、他方の3次元は富士山の頂上ということもあり得ます。3次元世界では離れているように見えても、6次元世界では同じ場所ですから。

 すると、3次元的には、マンガ『ドラえもん』の「どこでもドア」みたいなことになる。6次元の素領域に入り、もといたほうと違う3次元に出れば、あたかも瞬間移動したように見えるわけです。