人生は、棚からぼたもち!

人生は、棚からぼたもち!―86歳・料理研究家の老後を楽しく味わう30のコツ

 田村セツコさんの本に続いて、こちらの小林まさるさんの本も、そのとおりだな~と思いつつ読みました。

 

P83

 年を取ると、楽しみが減ってしまうんじゃないか、と言う人も少なくない。「小林さんはいいね、たくさん楽しみがあって」という人もいる。

 でも、まさみちゃんのアシスタントをする前から、俺はいろんなことを楽しんでいた。

 釣りに行くとか、そういうことだけじゃない。ちょっとしたことでも、楽しみにつなげられる。それこそ、何でも面白がると、面白くなるんだよ。

 例えば俺はテレビをあまり見ないけど、時代劇はけっこう好きだ。

 時代劇のストーリーはだいたい似たようなものだから、違う角度から見ていく。チャンバラ物は必ず殺陣のシーンがあるけど、あれはパターンがあることに気づく。

 殿様役なんかの俳優が、見事に悪役を斬っているように見えるけど、実はかたちが決まっていて、背景の舞台が違っているだけで、斬られている俳優は、みんな型に則っている。

 ・・・

 どうしてできるのか、と見ているうちに、型に気が付いた。俺が発見したのは4つぐらい。なるほどなぁ、なんて感心して見ていると面白い。

 もっと言うと、ドラマによって、完成度がまるで違っている。侍が歩いている向こうに高圧線が映っていたり、道に車のタイヤ跡があったりする。

 または、俺ならこうつくるけどな、なんて考えたりしてね。俳優の演技も、俺ならこうする、と思ったり。余計なお世話なんだけどね。

 ・・・

 でも、どうして料理のアシスタントだったのに、自分の料理本が出せたりしたのかというと、普段からこれをやっていたからだと思う。

 まさみちゃんの指示を聞きつつ、俺は俺で考える。自分だったら、どうするかな、と。もしかしたら、こんなふうにしたら、こうなるんじゃないか、とか。

 ただ言われるだけじゃなくて、自分で面白がって考えちゃう。それを楽しむことで、いつか何かの役に立つときがくるはずだ。

 

P131

 振り返ってみると、いままで俺は息子に「親風」を吹かさないように意識してきたのかもしれない。・・・

 息子とまさみちゃんの結婚式のことは、二人で決めてもらった。一切、口を挟まなかった。

 それどころか、息子の結婚式の前日、俺は息子を飲みに誘った。

「おい息子、お前は今日が独身最後の日だ。俺と飲みに行くか」

 そうしたら、息子は「行く」と言った。それから、飲んだ、飲んだ。笑って、歌って、スナックをはしごして。

 帰ったときには、もう明るくなっていた。そんなことで、結婚式の日は二人で寝坊しちゃって、大慌てで準備して、タクシーで式場に向かった。・・・

 ようやく着いたけれど、婿もその父も、まだプンプン酒臭い。まさみちゃんは「信じられない」と呆れてたけど、笑ってた。

 ・・・

 息子と何の話をするのかってよく聞かれるけど、いつもたわいもない話ばかりだ。

 息子やまさみちゃんに、ああせい、こうせい、とか、「人生ってモンは……」なんて話はしない。結婚したらこうするんだぞ、なんてことも絶対に言わない。聞かれたら、俺の考えは答えるけどね。

 息子の人生なんだ。自立して、一生懸命頑張っているんだから、そこは尊重したい。

 

P150

料理研究家の義娘のアシスタントになるなんて……いったいどうすれば、お嫁さんとそんなふうにうまくやれるのか?」

 これもよく聞かれる質問だ。実の娘とは違うのに、どうすればうまくやれるんだ、って。

 俺は息子が結婚してすぐ、最初にまさみちゃんにこう言った。

「あんたはこれから俺の娘だよ」

 たしかに他人は他人なんだけど、息子の嫁になったんだから、それは同時に俺の娘になるんだ、と。・・・

 ・・・俺が思うのは、そうやって言うだけじゃダメだってことだよ。行動も伴わなきゃいけない。本当の娘だったらどうするか、というつもりで相手に向かわないとうけない。

 例えば、まさみちゃんが「調理師学校に行きたい」と言い出したとき。・・・自分の娘の幸せを応援しようと思ったら、そうするべきだ、と考えたんだ。

 あとは、いろんなことを、できるだけ話すようにしている。

 娘なんだから、コソコソしたりしない。わかっておいてほしいことは、ちゃんと伝えておく。

 そうやって、まさみちゃんは俺のことを信用してくれるようになったと思う。そうすると、何かあったときに相談してきてくれるようになったんだ。

 ・・・

 そういうときは、娘のつもりで聞いている。ただ、親風は吹かさない。多くの場合、誰かに聞いてもらえるだけで、すっきりすることもあるからね。すでに自分の中で答えを持っていることもある。

 一方で、仕事を一緒にするようになってからは、俺は言ったんだ。

「親にしかできないことを、俺は言うことになるよ」

 長く生きてきたし、修羅場もくぐってきたから、嗅覚はあるんだよ。そうすると、ああ、この人は付き合わないほうがいいな、という人間は見えてくる。それは伝えている。

 あと、仕事が忙しくなってきたとき、問われてくるのは、謙虚でいることができるかどうか。どんな世界でも、テングになったらおしまいだからね。だから、気になる言動があったりしたら指摘した。「これは誰も教えてくれないんだよ。親にしか言えないことだからね」と言って。

 ただ、しつこく言うのはダメ。ほどよい距離を保つことが大切だ。

 

P237

 いま、俺は改めて思うことがある。それは、人生は出世とかそういうことは重要じゃないんだってことだ。

 人生で大事なことは、平々凡々と暮らすこと。だって、それがいちばん難しいんだから。もし平々凡々と暮らせていたら、それはかけがえのない幸せなんだ。

  そして、その幸せを存分にかみしめ、感謝することだ。