田村セツコさんの本に続いて、こちらの小林まさるさんの本も、そのとおりだな~と思いつつ読みました。
P83
年を取ると、楽しみが減ってしまうんじゃないか、と言う人も少なくない。「小林さんはいいね、たくさん楽しみがあって」という人もいる。
でも、まさみちゃんのアシスタントをする前から、俺はいろんなことを楽しんでいた。
釣りに行くとか、そういうことだけじゃない。ちょっとしたことでも、楽しみにつなげられる。それこそ、何でも面白がると、面白くなるんだよ。
例えば俺はテレビをあまり見ないけど、時代劇はけっこう好きだ。
時代劇のストーリーはだいたい似たようなものだから、違う角度から見ていく。チャンバラ物は必ず殺陣のシーンがあるけど、あれはパターンがあることに気づく。
殿様役なんかの俳優が、見事に悪役を斬っているように見えるけど、実はかたちが決まっていて、背景の舞台が違っているだけで、斬られている俳優は、みんな型に則っている。
・・・
どうしてできるのか、と見ているうちに、型に気が付いた。俺が発見したのは4つぐらい。なるほどなぁ、なんて感心して見ていると面白い。
もっと言うと、ドラマによって、完成度がまるで違っている。侍が歩いている向こうに高圧線が映っていたり、道に車のタイヤ跡があったりする。
または、俺ならこうつくるけどな、なんて考えたりしてね。俳優の演技も、俺ならこうする、と思ったり。余計なお世話なんだけどね。
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でも、どうして料理のアシスタントだったのに、自分の料理本が出せたりしたのかというと、普段からこれをやっていたからだと思う。
まさみちゃんの指示を聞きつつ、俺は俺で考える。自分だったら、どうするかな、と。もしかしたら、こんなふうにしたら、こうなるんじゃないか、とか。
ただ言われるだけじゃなくて、自分で面白がって考えちゃう。それを楽しむことで、いつか何かの役に立つときがくるはずだ。
P131
振り返ってみると、いままで俺は息子に「親風」を吹かさないように意識してきたのかもしれない。・・・
息子とまさみちゃんの結婚式のことは、二人で決めてもらった。一切、口を挟まなかった。
それどころか、息子の結婚式の前日、俺は息子を飲みに誘った。
「おい息子、お前は今日が独身最後の日だ。俺と飲みに行くか」
そうしたら、息子は「行く」と言った。それから、飲んだ、飲んだ。笑って、歌って、スナックをはしごして。
帰ったときには、もう明るくなっていた。そんなことで、結婚式の日は二人で寝坊しちゃって、大慌てで準備して、タクシーで式場に向かった。・・・
ようやく着いたけれど、婿もその父も、まだプンプン酒臭い。まさみちゃんは「信じられない」と呆れてたけど、笑ってた。
・・・
息子と何の話をするのかってよく聞かれるけど、いつもたわいもない話ばかりだ。
息子やまさみちゃんに、ああせい、こうせい、とか、「人生ってモンは……」なんて話はしない。結婚したらこうするんだぞ、なんてことも絶対に言わない。聞かれたら、俺の考えは答えるけどね。
息子の人生なんだ。自立して、一生懸命頑張っているんだから、そこは尊重したい。
P150
「料理研究家の義娘のアシスタントになるなんて……いったいどうすれば、お嫁さんとそんなふうにうまくやれるのか?」
これもよく聞かれる質問だ。実の娘とは違うのに、どうすればうまくやれるんだ、って。
俺は息子が結婚してすぐ、最初にまさみちゃんにこう言った。
「あんたはこれから俺の娘だよ」
たしかに他人は他人なんだけど、息子の嫁になったんだから、それは同時に俺の娘になるんだ、と。・・・
・・・俺が思うのは、そうやって言うだけじゃダメだってことだよ。行動も伴わなきゃいけない。本当の娘だったらどうするか、というつもりで相手に向かわないとうけない。
例えば、まさみちゃんが「調理師学校に行きたい」と言い出したとき。・・・自分の娘の幸せを応援しようと思ったら、そうするべきだ、と考えたんだ。
あとは、いろんなことを、できるだけ話すようにしている。
娘なんだから、コソコソしたりしない。わかっておいてほしいことは、ちゃんと伝えておく。
そうやって、まさみちゃんは俺のことを信用してくれるようになったと思う。そうすると、何かあったときに相談してきてくれるようになったんだ。
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そういうときは、娘のつもりで聞いている。ただ、親風は吹かさない。多くの場合、誰かに聞いてもらえるだけで、すっきりすることもあるからね。すでに自分の中で答えを持っていることもある。
一方で、仕事を一緒にするようになってからは、俺は言ったんだ。
「親にしかできないことを、俺は言うことになるよ」
長く生きてきたし、修羅場もくぐってきたから、嗅覚はあるんだよ。そうすると、ああ、この人は付き合わないほうがいいな、という人間は見えてくる。それは伝えている。
あと、仕事が忙しくなってきたとき、問われてくるのは、謙虚でいることができるかどうか。どんな世界でも、テングになったらおしまいだからね。だから、気になる言動があったりしたら指摘した。「これは誰も教えてくれないんだよ。親にしか言えないことだからね」と言って。
ただ、しつこく言うのはダメ。ほどよい距離を保つことが大切だ。
P237
いま、俺は改めて思うことがある。それは、人生は出世とかそういうことは重要じゃないんだってことだ。
人生で大事なことは、平々凡々と暮らすこと。だって、それがいちばん難しいんだから。もし平々凡々と暮らせていたら、それはかけがえのない幸せなんだ。
そして、その幸せを存分にかみしめ、感謝することだ。