達人に訊け!

達人に訊け! (新潮文庫)

 だいぶ前の本ですが、面白かったです。

 

P74

たけし ・・・育った時代の環境は、本当に似ていますよ。麻雀も始めたのは大学の頃からでしょう。

桜井 あの頃は、一億総麻雀の時代ですからね。私も大学時代に、「どこに行くんだよ」って友達について行ったら雀荘だった。暇だったから後ろで見てたら、「何で、こんな絵遊びに苦労するのか」と思ったんです。みんな数をそろえようとしているから苦労している。後ろから見ていて「ただの絵じゃないか」と思ったんです。それで自分でやってみたら最初から勝ち続けて、それで、半年後には、いわゆる裏の世界のプロという人たちに引っ張られたんです。

たけし 将棋の羽生さんも将棋は絵だと言っていましたよ。自分に合う絵なら勝てるけど、調子の悪い絵は劣勢だから、自分にとってのいい絵にしていこうとすると、やっぱり絵なんだね。漫才でも、頭の中に絵がない奴はだめ。言葉でやろうとしても面白くないんだ。自分の中で、面白い絵があればワーッとじゃべっていけるけど、絵がなくて言葉が優先すると、何をやっていいかわからないことが多いね。

桜井 数って、部分的じゃないですか。そうじゃなくて、絵の感覚になると全体感でとらえていく。そうすると、全体と部分的なものが流れとしてつながっていくんですよね。・・・

 ・・・

 ・・・私が勝負の世界にいた時は、ものすごいイカサマ師がいっぱいいた。ところが、イカサマなしでやろうというヒラッコというのがあるんです。ヒラッコでやると、本当に見えないものを見ていくことが勝ちにつながります。たけしさんと対談するということで『座頭市』を見たんですが、座頭市って目が見えないわけでしょう。私の麻雀も、見ないほうが勝つんですよ。場を見てたら負けるんです。後ろを見ながら麻雀を打つ(笑)。それでも勝てる。ですから、『座頭市』を見た時に、「ああ同じだな」と思って見ていました。

 ・・・

 私は実力のままにやれる、本当の麻雀をやりたいと思っているんですよ。世の中で出世したとか、お金持っているからとか、そんなことどうだっていいじゃないですか。勝負の中で正当な勝ち負けはあるだろうということをやりたいんです。勝つことだけが正しいのではない。ですから、雀鬼会では試合して優勝しても、失格になることがザラにあるんです。汚い麻雀を打ったり、人に迷惑をかけて打ったりしたら、そういう麻雀で勝っても、それは失格なんです。

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 ・・・勝つことが正義だとも思ってないんです。勝つことは結構不正だなと思ってる。それは勝ちを多少知っているからこそ言えることなんです。本当に私は長い間勝ってきたんで、「勝つ」って、こんな虚しいことはないなと思ったんです。代打ちを辞めた後、若い連中に勝つことと違う何か他のことを、どうやって教えたらいいかなと考えた。政治、経済の欲を全部取ってしまったら、いいものが出来るんじゃないかと思って、出来たのが今の雀鬼会なんです。政治的な策略や戦略、それから経済的な観念、そういう二つのものをうっちゃってしまうと、結構いいものが残るんです。・・・

 ・・・

たけし 実際に麻雀をやってみると不思議だね。当たり牌を全部当てられた時はショックだったな。

桜井 たけしさんがそういう顔をしただけですよ(笑)。

たけし 対談した話が頭に残っているじゃない。麻雀の流れとか雰囲気とか。そればっかし考えていたら、実際、おいらのところに東ばっかりが来るとかね。変わり目があって、その後は東が来なくなった。そういうのがちゃんと流れになっているのがよくわかったって感じですね。

桜井 三回和了った後に、この次は、配牌持ってくる時に東が来なくなりますよって言ったら、一回も来なかったでしょう。あれで、たけしさんの和了りは終わりなんですよ。あそこは、たけしさんが他の人に振ればいい。振ればまた流れが戻ってくる。あそこで振るのを恐れたり怖がったりすると、たけしさんの麻雀はダメになってしまうんです。勝負には守りってないんですよ。よく「守りの野球」なんて言うけど、勝負に守りはない。勝負には攻撃と受けしかない。攻撃するための受けがあるだけです。守ったら、もう負けですよ。それと、たけしさんのさっきの麻雀は考えたものではなくて、感性が麻雀を和了らせた。たけしさんの持っているものがバーンと出たから。

たけし 何ていうのかな。桜井さんと一緒にやっていると、ホワーンとするんですよ。何を引きたいとか全然思ってない。そうしたら、ポコッと最後の一枚をツモって和了れたんです。あれは一生懸命にやっていたら、引けなかったような気がする。

桜井 あれは絶対に無心ですよ。

たけし でも、雀鬼会の麻雀はずいぶん違いますよね。

桜井 まず一打目に風牌(東、南、西、北の牌)は捨ててはいけない。風というのは絶対、われわれでは勝てない神様じゃないですか。だから、大切にしないといけない。それから、三元牌(白、發、中)も人格を現しているものなので、やはり大事にしなければダメ。

 ところが、皆さんがやると、まず字牌を切って、数の牌を大切にしているでしょう。数というのは皆さんが言うお金なんですよ。だから、お金への欲があるから、どうしても数を大切にしちゃう。

 ・・・

 勝負事というか何でもそうだけど、勝機に「間に合えば」勝つわけでしょう。たけしさんの人生なんか全部間に合わせちゃってきているんじゃないですか。武道でいう間合いですよ。それを間に合わない麻雀、遅刻するような麻雀を打ったら失礼じゃないですか。それから、強さというのは目に見えないもので、強さが見えたら、もう強さじゃないと思うんです。リズムが見えたらリズムじゃないと。そんな教え方をしてます。

たけし 何かこうなってくると禅の境地を聞いているようだね。・・・