俺の生存戦略 富編

巨神のツール 俺の生存戦略 富編

 こちらは富編で、印象に残ったところです。

 

P35

 デレク・シヴァーズ・・・は、・・・哲人王の異名を誇るプログラマーであり、我が師匠であり、陽気なお調子者だ。もともとはプロのミュージシャンだった彼は、サーカスでは道化師として客を沸かせた(内省的な自分とのバランスを取るために、道化師の仕事をあえて選択した)。

 ・・・

「僕はずっと、いわゆるタイプA(競争的で攻撃的で過剰に活動的な性格)の人間だった。ロスに住んでた頃、友人からサイクリングに誘われたんだ。サンタ・モニカの海のすぐそばに住んでたんだけど、40㎞くらい続いてる、広いバイクレーンがあってね。僕はいつでも重心を低くして、こぎ始める―息を切らして、真っ赤な顔で、できるだけめいっぱい、こいでこいで、こぎまくるんだ。レーンの端まで行って、また戻ってくる。それから家に帰るんだけど、毎回小さなタイマーで時間を計ってた……」

「いつも43分かかることに気づいたんだ。どれだけ速くこいでも、43分かかる。そしてこんな風に思ってる自分にも気づいてしまったんだ。続けるうちに、自転車に乗ることを少し億劫に感じている自分にね。自転車に乗ることを考えると、いやな気持ちになって、つらい仕事に取りかかるときのようになってるな……、って。

 それでこんな風に気持ちを切り替えたんだ。『ちょっと待て。自転車に乗ることをネガティブなことに紐づけるなんてもったいないじゃないか。少し落ち着けよ、ってね。今日は、同じ道を、カタツムリみたいにゆったりと進む必要はないけど、いつもの半分のペースでこいでみよう』。

 そんな感じで出かけていったら、純粋に楽しめたんだ」

「自転車は変わってないのに、上体を起こす余裕がでてきたり、周りを見渡す回数だって、いつもよりずっと多いことに気づいたんだ。海に目をやると、海中からイルカがジャンプする姿が見えたりしてね。・・・」

「つまり、僕が言いたいことはこうなんだ。とても素敵な時間だったし、心から楽しめた。真っ赤な顔も、荒い息遣いもそこにはなかった。それから終点について時計を見ると、45分しか経っていなかったんだよ。『これはどういうことだ?いつもの43分は何だったんだ。そんなはずはない』。だけど、間違いじゃなかった。かかった時間は45分だった。このことは、それ以来、物事に取り組む僕の姿勢を変えるきっかけになった、とても奥の深い学びとなったんだ……」

「考えれば分かることなんだけどさ。それが何であれ、僕が顔を真っ赤にしながら、息を切らしてハァハァ言っても、それを、ものすごくストレスに感じていても、そのストレスが生んだものはたった2分の差でしかなかったんだ……。それってほとんど意味がないとは思わない?そして思った。人生のあらゆる場面で最大限の力を出すこと―たとえば、あらゆるものから最大限のお金を引き出そうとか、毎分毎秒全力を出し尽くす、とか―こんなことにストレスを感じる必要なんて、まったくないんだよ。それ以来、正真正銘、僕はこのスタイルを、生活に取り入れるようになった。何かに取り組むとしても、ストレスを感じる前にやめてしまうんだ……」

「心の中で、『あぁ』とうめいている自分に気づくことがあると思う。これが僕にとってのサインなんだ。それを、身体に感じる痛みのように扱ってあげるんだよ。今僕は何してる?自分を傷つけるようなことはやめる必要があるんだ。それって何だろう?たいていの場合、何かシャカリキになりすぎていたり、本当はやりたくないことを、イヤイヤやっているときなんだよね」

 

P81

 ・・・何かに苦しむとき、そこには3つのパターンが存在している。なくした。足りない。手に入らない」

 

P95

■「成功」と聞いて思い浮かべる人は誰ですか?

「92歳で亡くなった祖母かな。僕にとってのヒーローであり、女神であり、すべてだった。祖母はぽっちゃりした子どもだったから、両親が少しでも体重を減らそうと思ったんだね。6歳のときにタップダンスを始めたんだけど、それがきっかけで、すっかりとりこになってしまってね。6歳で心血を注げるものに出会って、92歳で亡くなる前日まで、ずっと続けていたんだ。

 月曜の朝に亡くなったんだけど、僕らが最初にしなければならなかったことは、100人もいる教え子たちに、今日はタップダンス教室はお休みです、って連絡することだったんだよ」