岩田さん

岩田さん: 岩田聡はこんなことを話していた。 (ほぼ日ブックス)

 毎朝、顔を洗うのと同じように、ブログをアップするのがルーティンになっているのですが、今朝は特に何があったわけでもないのに忘れちゃってました(;^_^A不思議です。

 

 こちらは、ほぼ日刊イトイ新聞に掲載された岩田聡さんのことばを再構成した本、興味深く読みました。

 

P24

 わたしが社長になった理由は、すごく簡単にいうと、ほかに誰もいなかったからでしょう。わたしはいつもそうなんですが、好きか嫌いかではなく、「これは、自分でやるのがいちばん合理的だ」と思えばすぐに覚悟が決まるんです。

 広い意味で会社が倒産して、とりあえずは、マイナス15億円というのがわたしの社長としてのスタートでした。結果的には15億円を、年に2億5千万円ずつ、6年間で返すことになりました。もちろん、その間も会社の維持費がかかりますから、社員に給料を払って会社を回しながら、それとは別の借金として返していきました。

 返済はしましたが、借金という意味では、そのときいろいろな人にご迷惑をおかけしていますから、そんなに胸を張っていえるようなことではないんですよ。

 ただ、得難い経験をしたのはたしかです。それだけの借金を抱えるというのは、ある種の極限状態です。そういうときには、ほんとうにいろんなものが見えるんです。「人は、どういう接し方をするのか?」とか。

 たとえば、わたしが新しい社長として銀行に挨拶にいきますよね?30代の若造が、「わたしが社長になって、がんばって借金をお返しします」と言いにいきます。すると、「がんばってくださいね」とおっしゃる銀行さんと、「ちゃんと返してくれないと困るんだからな!」と、すごく高圧的な態度に出られる銀行さんがいらっしゃるんですね。

 非常に興味深いことに、そのとき態度が高圧的だった銀行さんほど、その後、早く名前が変わりました。それだけ、あちらも深刻だったんでしょうね。

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 会社がたいへんなときって「1週間後までにこれを仕上げないとたいへん!」という自転車操業状態がずっと続いているんです。ところが一度倒産してしまうと、まとまった時間を取ることができて、以前にできなかったことができるんです。

 その「できなかったこと」が、わたしにとっては、みんなとの対話、社員ひとりひとりとの面談でした。

 そしたらすごくたくさんの発見があって、じつはこれはものすごく優先度の高いことだということがわかったんです。だから、会社を立て直してまた忙しくなっても、社員ひとりひとりと話すことはずっとやめないできたんですよ。

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 社員全員と面談するなかで、話し合うテーマは全員違います。ただ、面談のプログラムのなかで、唯一決まっているのが「あなたはいまハッピーですか?」という最初の質問でした。・・・

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 ・・・そうして訊くとですね……まぁ、いろいろなんです(笑)。

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 人が相手の言うことを受け入れてみようと思うかどうかの判断は、「相手が自分の得になるからそう言っているか」、「相手がこころからそれをいいと思ってそう言っているか」のどちらに感じられるかがすべてだとわたしは思うんですね。

 ですから、「私心というものを、どれだけちゃんとなくせるのかが、マネジメントではすごく大事だ」と、わたしは思っているんです。

 わたしには、社内の仲間に対しては利害の発想はないです。もちろんわたしがネゴシエーションをしたことがないわけでもないですし、ビジネス上、交渉を不要だという気はありません。でも、こと同じ会社で同じ目的を果たす仲間とのあいだで、それをする必要はないでしょう?

 やっぱりみんな納得して働きたいんですよね。ただ、会社がいろんなことを決めたときに、ふつうの社員の人たちはほとんどのケースで、なぜそう決まったのかがわからないんです。単純に、情報がないですから。

「社長はあんなことを言っているけど、どうして?」というようなことが、いっぱいあるんですね。

 面談でひとりひとりの話を聞いていると、「この判断の背景にある、この理由が伝わっていないんだな」とか、「わたしがこう言ったことが曲解されて、こんな不満を持っているんだな」ということがわかってくる。それで、自分はどうしてこういうことを言ったのかとか、なにがあってこういうことを決めたのかということを、もちろんなにもかもしゃべれるとは限りませんが、その背景をできるだけ説明していくんです。

 それは、けっきょくは「こういう材料がそろっていたら、君ならどう考える?」ということを訊いているのと同じことなんです。それで、相手が「ぼくでもそうしますね」ということになったら、安心じゃないですか。同じ価値観が共有できていることがわかると、お互いすごくしあわせになるんですよ。

 相手が誤解したり、共感できなかったりするときには、いくつかの決まった要因があるとわたしは思うんです。そのいくつかの組み合わせで、人は反目しあったり、怒ったり、泣いたり、不幸になったりしている。そういうときは、だいたい複数の要因が絡まっていますから、ひとつずつほぐして原因をつぶしていけば、すっきりするわけです。

 わたしが面談でどのくらい時間をかけているかというのは、つまり「相手がすっきりしたらやめている」ということなんです。その意味では、「できるまでやる」。それも決めたんです。

 みんながわたしを信用してくれた非常に大きな要因は、わたしがその面談を続けてきたことだと思うんです。生半可な覚悟では続けられませんし、それがしんどいことだということは、誰の目にもわかりますから。