力を抜く

小泉放談 (宝島社文庫)

片桐はいりさんとのお話も、よかったです。

P301
小泉 ・・・『あまちゃん』(13年)の時も、すごく身体のこと、おっしゃってましたよね。

片桐 そうそう。あの作品の時は、すごくいろんな発見があって……。私、海女の役で海に潜らなきゃいけなかったんだけど、泳げなかったんです。近所のプールには行ってたんだけど、バタ足までしかできなくて。で、撮影になって潜って、「ダメだ、上がれない」って状態になって。これ死んじゃうかも、死なないまでも撮影中止かもと思ったその瞬間、小泉さんがアキ(のん)に行ったセリフを思い出したんですよ。

小泉 「考えない」っていうやつですよね。

片桐 そう!頭を使うことがいちばん酸素を使う、っていう。それを思い出して力を抜いたら、プーッと体が浮いて、それで事なきを得たんです。

小泉 おおー。

片桐 そうか、考えないで、力を抜けばいいんだって。50歳を迎えたのは、ちょうどその頃です。・・・思えばその頃が、自分の中で力入れてがんばってたピークで……。40代、私はずっと家族の介護と看護をやっていて、11年に母が急に亡くなったことでそれがなくなって、言葉はよくないんですが、抜け殻というか、燃え尽き症候群みたいになって。それで、とにかく新しいことをガンガンやって、っていう時期だったんですけど、やはりそれにも限界が来ていて。

小泉 そうだったんだ……。

片桐 そんな時に「力を抜いていいんだ」「いつかは治るんだ」って言われて、実際、身体にも変化がいろいろ起こったもんだから……。そこから先は、もうラクちん。今思えば、あの50の時が、人生の境目だったのかもしれません。

小泉 うん、うん。

片桐 「力を入れてできることは、もうやった!」みたいな。身体もそうだけど、気持ちの面でも、相手に対して異常に期待するとか、そういうことがなくなりましたね。「この作品、絶対おもしろくするから!」みたいな力の入れ方とか……まあ、熱意は持ってるんですけど(笑)。でも、何となくやることで、逆に広がるものがあるのかなって。身体の不調もあるにはあるけど、でも……。

小泉 あって当たり前だよ50代、ですよね。

片桐 そう。「あるよね、そういうこと」っていうくらいに捉えておくと、悪いことは起きない感じがしますよ。今でも気持ちの安定を脅かすようなことはいっぱい起こるけど、しれっと全部受け入れるっていうか。「しょうがないもんねー」って。