この見立て、とても興味深かったです。
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夏休みに関西に帰り、何年かぶりにサラリーマン時代の同僚女性に連絡をしたら、最近離婚をしてコンビニでバイトをしながら実家で子供を育てているという。
ちょうど育児関係のエッセイを書いているという話をすると、
「ウチの元夫のこと書いてくださいよー」
と言われたので、詳しく聞いてみたのだが、これがかなり身につまされる話だったため今回は「離婚」について書いてみたい。
彼女が結婚したのは7年前。30歳のときだ。・・・夫はインドア派で、遊び人でもなく、熱中している趣味もなく、基本的には優しくて、「さらっとしてる人」だったという。仕事は中古車の営業マン。とくに悪い印象もなかったので付き合い始めて、その年に授かり婚。
そして7年で離婚するわけだが……それまでに4つの大きなきっかけがあったという。
まずは子供が生まれたときのエピソード。
その1 無関心
病院での出産のとき、彼女が陣痛で苦しんでいるにもかかわらず「俺やることないよね」と言って帰り、生まれてから数時間後にふらっと来てまた帰っていった。退院して彼女が自宅へ帰るときにも、「その日は忙しいからタクシーにのって自分で帰ってきて」と言って放置された。
もちろん彼女はキレたが、あまりわかっていないようだったという。・・・
その2 自己中
子供が2歳くらいになったときのことだ。
ある日曜日、彼女は節約のためにお弁当を作って子供を連れて公園にピクニックに行こうとしていたが、その日になって夫が、「俺、今日演劇見に行くわ」と、一人で演劇を見に行ってしまった。
残された彼女は公園でひとり、子供を遊ばせて弁当を食べながら泣いた。
「このときは悲しくてもうなにも言う気が起きませんでしたよ。でもまだ離婚までは考えてなかったかな」
子供が3歳くらいになれば、夫も父親の自覚がでてくるだろうと楽観視していたという。
そして……。
その3 ケチ
子供が3歳になったある日の休日、彼女は子供といっしょに銭湯に行こうとしていた。
そこへ夫が帰ってきたので、一緒にどうかと誘うと、彼はうーんと唸って、
「銭湯って高くない?お金がもったいないよ」
と言って、400円を渋ったのである。すっかり銭湯に行く気だった子供は泣き出し、彼女は惨めな気分に打ちひしがれた。
「専業主婦だからお金のこと言われるとどうしようもないんですよ。罪悪感もあるし。でも今考えると完全に経済的モラハラですよね」
・・・
そして最後、
その4 見栄っ張り
ある日、夫がキレた。彼女のランチ代が高いというのである。
たしかに近所のママ友と週に1回か2回ランチに行っていた。月にすれば5000円くらいの出費である。専業主婦の負い目もあり、しょうがないなと思い、彼女はそれからママ友とのランチは控えるようになった。
ところが、ある日のことだ。
夫が「駅前にできた友達の飲み屋に出資した」という。聞けば最近知り合った友達に絶対儲かるからと言われたらしい。怪しいと思ったらやっぱりすぐにお店は閉店。出資したお金は帰ってこず。そのせいで家計が苦しくなり、彼女は働き始めた。反対に夫は仕事をやめた。
「あ、この人ヤバいな、ってこのへんで気づいたんですよね」
・・・
話を聞き終えて、「他人事じゃねえな……」とつぶやいてしまった。
この夫が犯した「無関心」「自己中」「ケチ」「見栄っ張り」という、「4つの大罪」はたしかに重い。
しかし……同じ男であるぼくにも覚えがないわけではない。
・・・たぶん、彼に悪意はない。話を聞く限り、・・・執行猶予がつく可能性がある。
その1 無関心
この無関心エピソードだが、詳しく聞いてみると陣痛中に彼女はイライラして、「もう帰って良いよ」と言ったらしい。これがポイントだ。
この夫のようなタイプは、あまりものを深く考えていないので、言葉の裏を読むことをしない。彼女の言葉をそのまま受け取ってしまった可能性がある。
その2 自己中
この状況も詳しく聞いてみると、前日に「演劇行こうよ」と誘われて、彼女が「明日は公園行く予定だよ」と返したそうだ。ということは……夫の頭の中では「あ、そうか、彼女は用事があるんだな。邪魔せず俺一人で行こう」と変換されたのである。
「は?なんで?頭おかしくない?」
と思うだろう。いや、おかしくはない。なぜならおそらく彼くらい父親の自覚がない人間は、そもそも家族という単位に自分を入れていない可能性がある。こういうタイプは、無理矢理子供と二人きりにさせないと自覚が芽生えない。
その3 ケチ
単なるケチエピソードと思えるが、ぼくの見立ては違う。これはかなり父としての自覚が芽生えている。自分がすべての面倒をみなくてはいけないといううっすらとした不安から、突如として緊縮財政を発動させてしまっているのだ。つまりこれは家族の一員として経済観念が発達してきた証拠なのである。悪いことではない。問題は発動するタイミングがおかしいことだ。・・・
その4 見栄っ張り
これも前述したように緊縮の行き着く先である。そう、人は節約したあと、お金を増やすことを考える。そして失敗するのである。ぼくから見ると、この時点で彼はかなり父親の自覚があったのでは、と思える。出資も、見栄ではなく本気で「イケる!」と思っていたのだろう。失敗したあと、彼女が仕事をはじめて、彼が仕事をやめたのはおそらく彼なりの反省パフォーマンスだったのだ(実際は自殺行為だったのだが)。
つまり彼は、ある意味で裏表のない純粋な人だったのである―というような話をしてみたのだが、彼女に、
「今の話みたいな心理だったらそれ……完全にヤバいやつですよ……別れて良かった」
と言われた。
いやいや!違うよ!俺も似たような経験あるからわかるんだよ!
そう言うと、彼女は、
「めろんさんも慰謝料準備しといたほうがいいですよ……」
と言い、冷たい目で去って行った。
……世の中の奥様方たちとの深い溝を埋めるために、『パパいや、めろん』は存在しています。