AIにまつわるエッセイが面白かった海猫沢めろんさん・・・の名前を、そういえば子育て本の棚で見かけたことがあったような?と思い、見てみたらありました。
視点が面白かったです。
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震災がおきた2011年。シェアハウスで同居していた彼女とのあいだに、子供が生まれた。保活に戸惑い、なにもかもわからないまま自宅で面倒を見た1年目が終わり、翌年、パートナーが体調を崩した。別居してぼくがワンオペせざるをえない状況となり、ぎりぎりなんとか保育園に入れることができたものの、そこは区外の認証保育園だった。
子供を育ててわかったのは、東京で育児することの異常なほどの困難さだ。・・・
そんなデスゲームを生き延びた数年後……。
「めろん先生。子育てエッセイやりましょう」
編集さんにそう提案されたのは2017年のことだった。
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とにかくまずぼくが言っておきたいことは、もしあなたがたが出産前なら、いますぐに三種の神器SSDを買っておけ!ということだ。
SSDとはなにか?
・洗濯乾燥機(SENTSAKU KANSO KI)
・食器洗い機(SHOKKI ARAI KI)
・電動自転車(DENDO JITENSHA)
この3つである。
所帯じみていて申し訳ないが、マジでこれだけで戦力が違ってくる。
保育園にはいれようがはいれまいが、離婚しようがしまいが、日々の家事は必ずやるはめになる。これが軽減されるだけでもメンタルは非常に楽になる。
絶対買え。今すぐ買え。中古でいいから買え。死ぬぞ。
まあ死ぬは大げさにしても、これがあるとないでは家事の負担がまったくちがう。
まず洗濯乾燥機だが、子供が生まれると、これまでのように洗濯してから干すなどとまどろっこしいことはやっていられない。タオル消費が半端ない。片っ端から洗って乾燥機にかけよう。
つぎに食洗機。子供がいると食器をていねいに洗っているヒマはない。洗えるのは哺乳瓶だけだと思っていい。食洗機なら高温洗浄でバイキンも殺せるので安心だ。
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最後に、大本命である電動自転車だが、これだけは死んでも買うべきだ。10万くらいするが、分割払いにしてでも買うべき。とくに子供が3歳くらいになると必須。ウチは近所が坂だらけだったので無茶苦茶重宝した。これがあれば2駅くらい先の保育園なら余裕でいける。
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このSSDだが、ガチで買えば30万円……中古でそろえても10万円くらいしてしまう。クソ貧乏なぼくには正直めっちゃきつかったので、4年くらいかけて順次導入していった。
しかし、買うたびに「なぜもっと早く買わなかったのか……」と思ったので、これを読んでいる方々は最初から導入を検討してほしい。
あと日本はまずこのSSDを家庭に無料配布するところから始めていただきたい。保育園がつくれないんだったら、せめて日常が楽になるインフラを整えてほしい。
ついでにもう一つ、男子であるぼくから世の中の父親に言っておきたいことがある。
今日本に必要なのは徴兵制じゃない……徴父制だ!
男が出産前にゲットするべき三種の神器SSDのついでにもう一つ、言っておきたいこと。
それは、
男の育児は「とりあえずワンオペ」から
である。
もし育児にちょっとでも協力する気があるなら(ない場合は離婚訴訟で慰謝料を払う準備をしたほうがいいだろう)、まず子供と二人きりですごしてみてほしいということだ。
男性は女性に旅行に出かけてもらうとか実家に帰ってもらうとかして、ひとりで3日くらい子供の面倒をみてみると良い。会社員なら金曜夜から日曜まででもいい。とにかく完全なワンオペをしてみてほしい。
そうするとどうなるか。
気が狂いそうになるのである。
これはマジでヤバい。
子供の機嫌によってはおんぎゃあが止まらないときもあるし、ついでにゲロが止まらないときもある。おまけにこっちのスケジュールなどおかまいなしにすべてをぶち壊してくるうえに、会話も通じない。
モンスタークレーマーなど生易しいものだ。壊れたおもちゃかと思うくらいしつこい。聖人かよほどの赤ちゃん好きでない限り耐えられない。どんな屈強な男でも8割は音を上げる(当方調べ)。
それでも感情のスイッチを切って育児機械になり、ミルクとおむつとだっこを繰り返す。それが男の育児だ。
適性とかそういうものではなく、やるしかないのである。母性とか父性とかそういうものはどうてもいい。人類には最初からそんなものはないと思ったほうが良い。
とにかくやれ。
体育会系の男がよく言うセリフなので、マッチョな男はきっとやれる。必ずやれる。とにかくやれ。
このような地獄のワンオペだが、3日だけでもやると産後の女性の苦労に共感できるようになる。
理解とかではなく「共感」であることが重要だ。
そう、頭で理解ではなく心で共感しなくては人は動かない。これはビジネスでも同じだ。世の中の大企業は、善きビジネスマンを増やすために男子のワンオペ育児を推奨するべきだろう。
この国にひとつの具体的政策を提案したい。それは徴兵制のかわりに徴父制をつくることである。
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子供がYouTubeを見すぎている―少し前にそんなブログのエントリが話題になった。
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ぼくも同じようにこの問題に直面した。
0~4歳くらいの幼児期に限って言えば、ウチではタブレットなど動画はハードごと封印し、さらにテレビを見るにしてもルールを決めた。
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幼児のYouTube問題とは結局のところ「親がなにを見せてなにを制限するか」という問題に落ち着きそうである。
それでもYouTubeを見る子供が許せない場合、いささかエクストリームではあるが、親がYouTuberになることを提案する。
そうすれば子供になにか別の種類の刺激を与えることが可能だ。
実際に、ぼくはこないだ、海猫沢めろんチャンネルを開設し、テンションだけで芥川龍之介の「蜘蛛の糸」を読むという動画をYouTubeにアップし、子供と一緒にそれを鑑賞した。
やはり知っている人間がYouTubeに登場するのはインパクトがあるらしく、彼は「あははは!」と笑いながら真剣に見入っていた。
そして、YouTubeを見終わってひとこと、
「うーん……カンダタ、たすかるとおもったんだけどなあ~」
え……そっち?めっちゃストーリーに入り込んでるじゃん。俺に突っ込んで欲しかったんだけど……まあいいか。
今や8歳となった彼であるが、成長して小手先の説得は通用しなくなってしまった。現在YouTubeは勉強をしたあとのみに30分だけ許しているが、たまにぼくはこう言って怒る。
「ゲーム実況動画ばっかり見てないで自分でゲームやりなさい!」
ついに新世紀が到来した。