3Dプリンタ

明日、機械がヒトになる ルポ最新科学 (講談社現代新書)

 この本が出版されてからもう何年も経っているということは、今はどこまで進んでいるんだろう・・・と驚きつつ読みました。

 

P43

 さて、知りたいのはやはり、田中さんが本で書いていた「3Dプリンタ生物説」についてです。まず、なんでそんな妙なことを考えたのか、さっそく聞いてみました。

―田中さんが、3Dプリンタのことを生物のようだと感じたのはいつだったんですか?

田中 植物は、種を買って植えて育てると、種が落ちて勝手に増えていきますよね。3Dプリンタを見たときに、そういうことがモノ(人工物)でもできるようになっていくんだ、とすごく興奮したんです。イギリスで3Dプリンタで3Dプリンタをつくる「RepRap」っていうプロジェクトがあって、・・・

―そうはいっても、自己を複製できるものって、山ほどありますよね。ウイルスとかもそうじゃないですか。

田中 3Dプリンタで3Dプリンタをつくる場合、実は同じものはほとんどつくれないんです。むしろ、少しずつ改良が加えられていく。なんか進化の過程みたいに亜種や変種ができていくんです。もともと「あらゆる道具は何かの道具でつくられている。だとしたら、目の前にある道具もまた別の道具でつくられている。それをたどっていくと、あらゆる道具の原点となった道具があるはずだ……」とか、そんなことを考えるのが好きだったんですよね。・・・

―なるほど……確かに生物っぽいですね。

 ・・・

―とはいえ、モノを生物だと考える発想はやっぱり独特じゃないですか?

田中 なんでしょうね。僕は、人間の「常識」みたいなものから離脱していくために研究をしているところがあるんですよ。すごく、人間中心のモノの見方を転倒させていきたいと思っているんです。3Dプリンタの前にやっていた研究が、動植物が参加するインターネットっていうものでした。植物に電極をつけておいて、ある反応が来たらツイートをするような仕組み。水をくれ、とか。

―そういえば、植物って根っこ同士で微弱な電磁波を交換してると聞いたことがあります。

田中 そうなんですよ。その研究をしていたのは2005年あたりなんですが、当時はちょうどソーシャルネットワークが出てきた頃でした。・・・でも僕は、人とだけつながりたくなんてなかった。それは悪夢だと。もっと植物とか山とか海とか、そういうものとつながりたかった。

―おもしろい(笑)。人間は嫌いだけど、自然とはつながりたいんですか?

田中 はい。主には石と植物です。僕が好きなのは、日本庭園。

 

 最新科学を通じて生物と機械の境界を探りたい、そう思っているぼくにとってこの言葉は衝撃でした。田中先生の今言っていることは、その境界を溶かしてしまうような話なのです。・・・

 

―よく考えてみると、これだけIT技術が拡がってるのに、自然とつながるIT技術って確かにないかもしれないですね。

田中 海外では、世界中のイルカをつないだイルカSNSの研究とかあるんですよ。・・・

―イルカってところがニューエイジ思想っぽい(笑)。

田中 そうですね(笑)。いやあ、何なんですかね、僕のやってることは。自分のルーツを思い出してみると、過去に京都にいた頃は、建築や箱庭療法にも興味があって、精神分析学の勉強とかもしてたんです。・・・モノに心を投影しているのか、それとも心がモノを生み出しているのか……そういうことを昔から考えていたんでしょうね。

 ・・・

―ぼくは子供の頃「FAXでスルメが送れるんじゃないか?」って考えたことがあるんです。・・・3Dプリンタって「情報が物質になって出てくる」わけで、それが実現したのかもしれませんね。

田中 そうですね。・・・実は・・・3DFAXがもうすぐ発売されるんです。

―3DFAX……⁉それは本当に物質転送みたいなことですか?

田中 そうです。物質を置いたら、スキャンデータがあっち側に送られて3Dプリンタで出力されるんです。だから、FAXのイタズラみたいに、家に帰ったら3Dプリンタからお土産物みたいなモノがたくさん送られてきた……みたいなことが本当にありえてしまいます。・・・

―いや、でもそれ……データでためておけばいいじゃん……って思いません?(笑)物理空間が侵食されるのは、なんか嫌だなあ。

田中 問題はそこです(笑)。僕も物理空間を取られるのが嫌で、・・・「消えてなくなる物質」っていうのをつくらないといけない、という話になっているんですよ。何日かだけ存在して何日か経ったら消滅する。その期間が設定できる拡張物質。・・・僕らはまず「砂」でやろうと思ってるんです。・・・