つづきです。
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二村 一九九〇年に・・・雑誌の「現代化学」・・・の表紙のところに「ミラクルフルーツ」って書いてあって「味覚を変えるタンパク質」っていうタイトルが付いていた。・・・そしたらその記事の最後のほうに「ミラクルフルーツよりももっと面白い植物がマレーシアにある」って書いてあるんですよ。
高野 おお、それは気になりますね。
二村 クルクリゴっていうんですけど。・・・効果はほとんど同じなんですけど、ミラクルフルーツは、ミラクルフルーツを食べたあとに酸っぱいものを食べないと甘くならないんです。・・・だけどクルクリゴはそれ自体がちょっと甘くて、酸っぱいものも甘くなるし、口に含んだあと、水を飲んでも水が甘くなるんです。しかもクルクリゴを食べたことを忘れた頃にもずっと甘いの。・・・ビジネスになるんじゃないかと閃いたわけですよ。・・・まずは栽培してみようと思ったわけ。でも全然お金がないんですよ。それに栽培といってもビジネスとして考えてるわけだから、家で何株かやるんじゃなくて、ある程度の規模で大量に生産したい。
高野 描く絵が大きいですね(笑)
二村 そう(笑)。クルクリゴはジャングルで見つかるくらいだから、やっぱり暗いところが好きな植物なんです。・・・そうなると広々としたところを借りたら、光をよけるために遮光用のネットを立てたり設備にお金がかかるじゃないですか。
高野 二村さんはそのとき肩書きみたいなもの何かあったんですか。
二村 そのときは、もう会社を始めていて……。
高野 会社って⁉
二村 いや、今の会社の前身の。生物資源をデータベース化して、製薬会社とか健康食品会社に売っていたんです。
高野 会社として収入はあったんですか。
二村 ない。本当に全然ない。その頃、奥さんの収入で生活をしていたという……。・・・家内は中華系のマレーシア人なんですが、結婚式のお祝いに僕にも親族がゴールドの指輪とかネックレスをくれるわけですよ。それをね、質屋に持っていっていた。僕、日本でも質屋に行ったことないのに(笑)。・・・質屋に持っていく質草も尽きて、ああもうこれで結局日本に帰らないとダメなのかってなったときに、昔、申請を出していたクレジットカード、しかもゴールドのが二枚届いたんですよ。ということは、それでキャッシングできるでしょう?
・・・
高野 でもキャッシングは返さないとダメじゃないですか。
二村 そうなんだけど、それで日本に帰るのをやめて、もうちょっとなんとかするかって言っていたら、世界で第何位っていう欧米の製薬会社からマレーシアの薬用植物のデータベースつくるんで、現地の担当をしてくれってオファーがあったんですよ。
高野 まさに地獄から天国ですね。
二村 うちの会社をどこで探してきたんだ?って感じでしたよ。そしたらね、欧米の製薬会社なんで出すお金のスケールが違うんですよ。・・・キャッシングで借りた金はさっと返して、奥さんには車を買ってやるわ、急にお大尽みたいになっちゃって。ただ、すぐになくなっちゃいましたけどね。それと、その頃NHKの「おはよう日本」って番組で紹介されたんです。・・・土曜日の朝の六時半とかの放送で、誰も見てないんじゃないか?って思っていたら、なんと日本のとある大手製薬会社の社長さんが早起きの人で、・・・この人とコンタクトを取れって。・・・今じゃきちんと契約を結んで仕事させていただいています。
高野 仕事になっちゃったんですか。
二村 だからね、世の中って本当にわからないですよね。
高野 一寸先は闇なんだけど、一寸先は光でもあって。
二村 そうなんですよ。ただ僕はめちゃくちゃなことをやってるけど、そのときは絶対これはなんとかなるって、闇雲に信じてたところはあったんです。
・・・
高野 ぼんやりサッカー見てたときから、ずいぶん遠くまで来ましたね。
二村 そうですよねえ。でも自分がこういう仕事をしたいって気持ちは強く持っていたし、なんかきっとできるだろうっていうのはありましたけど、ここまでやっぱりいろんな人に助けられてね。
高野 うん。
二村 ポイントポイントでいい人に巡り合って、すごく助けてもらったなあって感じがありますよ。・・・