ちょっとしたことが、考えや判断の決め手になっていて、実はまったく意味がない、みたいなこと、たくさんあるんだろうな~と・・・
P110
頭の中に1から10までの数字を一つ思い浮かべてください。きちんと思い浮かべたでしょうか。
思い浮かべた数字が、もし偶数だったら500円差し上げます。さて、あなたが考えた数字はいくつですか?
本当は奇数を思い浮かべたのに、ウソをついて偶数を答える人がいるかもしれません。
こうした状況で、できるかぎりウソをつかれないようにするには、次のどちらの言い方がよいでしょうか。
① ウソをつかないでね
② ウソつきにならないでね
答え ②ウソつきにならないでね
この現象は犯罪心理学の研究からわかってきました。そもそも犯罪者はなぜ罪を犯すのでしょうか。好んで犯罪に手を染める人は少なく、止むに止まれず悪事に走ってしまうことが普通です。
このとき「自分は本当は善良な人間だが、今回ばかりは特別だ」と自分の心に蓋をしています。つまり、「本来の人格」と「実際の行動」は別であるとするわけです。
設問を見てみましょう。選択肢①は「行動(〇〇すること)」を否定しますが、選択肢②は「人格(〇〇であること)」を否定します。脳は「一回の過ち」を否定されるより、「人間としての本質」を否定されることに抵抗を感じます。
実験によれば、選択肢①では約30%の人がウソの申告をしましたが、選択肢②ではウソをつく人はほぼいませんでした。
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「怠けないで」より「怠け者にならないで」、「私の状況を理解してください」より「私のよい理解者になってください」、「泣かないで」より「泣き虫にならないで」などなど、多くの場面で応用できそうです。
P117
レストランが二つあります。一つは自宅の隣、もう一つは車で15分ほどのところです。
料理の美味しさを尋ねると、どの回答が多いでしょう。なお本人は、二つのレストランがチェーン店で、実は同じ料理を出していることを知りません。
①どちらも同じ美味しさに感じる
②近所のほうが美味しいと感じる
③遠方のほうが美味しいと感じる
答え ③遠方のほうが美味しいと感じる
脳は自分のとった行動から、自分の心理状況を推測します。設問の状況では、「わざわざ遠くまで食べに行くくらいだから美味しいはずだ」と、自分の努力を正当化します。
この現象は日常の多くの場面で見られます。
たとえば、給料は高いほうがよいとは限りません。なぜなら「安い給料で働いている」→「もし仕事がイヤならこんな安月給で頑張るはずがない」→「なるほど!仕事が面白いのだ」と無意識のうちに推測を進めることで、心理状態が変化し、仕事への愛着が増すからです。
―自分で買ったものは、無料でもらったり借りたりしたものよりも楽しめます。
―厳しい試験を受けて入った組織には愛着がわきます。
―苦労しても手に入らなかったら、「とくに欲しくはなかった」と評価を下げます。
―本書を119ページまで読み進めてきた読者は、「ここまで放り出さずに読んできたということは、この本は面白いのだ」と評価を高めます。
こうして自分の行動に沿うように、無意識のうちに心の内面を置き換えるのです。
この現象は、恋愛テクニックにも応用できます。好きな相手には、つい手伝ってあげたくなるものですが、本当は逆です。手伝ってもらうほうが効果的なのです。なぜなら相手の心には次のような変化が生じるからです。
「こんなに手伝っている」→「嫌いな人を手伝うはずがない」→「なるほど、この人を好きなのだ!」