忙しい日でも、おなかは空く。

忙しい日でも、おなかは空く。 (文春文庫)

 きっと好みだなと思いつつ、読みそびれていたエッセイ。

 ほっとした気持ちになる本でした。

 こちらは、やってみよう♪と思った、かまぼこの食べ方です。

 

P164

 知らない味というのは、なにも目新しいレシピのことだけではない。

 たとえまったくおなじ素材でも、切りかたを変える、ただそれだけでまるきり違う味になってしまう。「こんなの知らなかった!」。思わず声を上げてしまうおいしさがあらわれる。

 そのひとつが、かまぼこ。かまぼこは半月に切るのがあたりまえ。なんの根拠もないのに、そう思いこんでいませんか。

 かまぼこをおいしく食べようと思うときは、わたしは手でちぎる。ざっくりざっくりおおきくちぎる。すると、まったく知らなかったかまごこの味が出現する。ただのかまぼこが突然ごちそうに変身するのです。

 ただし、ざっくりちぎる塩梅には少しばかりこつがある。まず、指をおおきく開いてかまぼこの一片をわし掴みにする。へたに遠慮してはいけません。ぐいっと指を大胆にかまぼこにめりこませ、そのまま力をこめてくいっ。ひとつちぎったら、今度はおなじおおきさになるよう狙い定めて、ほかの角度からまたちぎる。いっけん雑に見えるが、これがけっこうむずかしい。

 ちぎったかまぼこに、わさびか味噌、または醤油をほんの少しつけて口に放りこむ。

 ぐいっ。

 上と下の歯、両方に勢いよく抵抗を返してくる、その意外なちから強さ!ぺらぺらの半月かまぼこでは決して出合えなかったおいしさに呆然とする。くいくい、ぷりぷり。噛むほどにしっかり味わいの芯が姿を見せる。かまぼこが魚のすり身でつくられているという当然のことを、今さらながらに思い知るのである。

 知己とおしゃべりしていたときのことだ。伊丹十三さんと親しかった彼は、あるとき自宅に伺って酒宴となった。そのとき、おもむろに伊丹さんはかまぼこを取り出し、わしわしとちぎり始めたのだという。

「あのねキミ、これがかまぼこの一番うまい食べかたなのだよ」

 

 作り方

 ①かまぼこ、または焼きかまぼこを手で3~4センチの大きさに揃えてちぎる。

 ②うつわに盛り、味噌を添える。

 *味噌は醤油やみりん、炒りごまを混ぜてひと煮たちさせたものを使ってもおいしい。