アマゾンの料理人

アマゾンの料理人 世界一の“美味しい”を探して僕が行き着いた場所

 大根のおいしい食べ方を紹介したテレビ番組に著者が出ていたの見た数日後、図書館の本棚で偶然この本を見つけて、あれ?この間のあの人?と手にとりました。

 とてもおもしろかったです。

 

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 「フロリレージュ」の川手さんは、初めてカカオの話をした時から、アマゾンに興味津々だった。「世界のベストレストラン50」でも上位を目指す川手さんは、広い視野をもつ料理人の一人だ。食材への興味も、それを使ってどんな料理を作るかだけに止まらず、どんな環境でどんな人たちが育てている食材なのかと広げていく。「フロリレージュ」ではフードロスを減らすことにも取り組んでいる。

 そんな川手さんから「アマゾンに行きたい」「カカオ村の現状を知りたい」とのリクエストを受け、この人の本気にとことん付き合おうと覚悟を決めた。

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 川手さんが最初に驚いたのは・・・途中のレストランで食べた、カピバラのスープだった。・・・フランス料理ではよく使う食材だが、一般的には匂いがきつく、ていねいに処理をしないと臭みが抜けない。

 ところが、ここで食べたカピバラは、ジビエの概念をくつがえすようなクセのないとても素直な味だったのだ。・・・料理をしたおばさんに聞くと、「水で煮出すだけ」とあっさりしたもの。味付けは、塩と唐辛子とコリアンダーだけなのに雑味がなく、たくさん食べても胃がもたれない。

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 カカオ農園では、村人たちに大歓迎してもらった。日本の有名なシェフを連れて行く、と話していたのだ。川手さんとカカオ農園を歩き、加工所を見学したが、お金が十分回っていない状況は一目瞭然で、ブルゴーニュでワインを造っているぶどう農園とはまったくの別世界だと驚いていた。

 だけど彼らは自分たちの現状を悲観的には捉えていない。スコールが降って食べ物が獲れなくてもイライラするのではなく、スコールが降ったら止むまで待てばいいとのんびりしたもの。時間にもお金にもまるで追われていないから、心が健やかなのだ。子どもたちは、カカオ農園のこと、大人たちがやっている仕事のことをよく理解し、誇りに思っている。なんとかお金がうまく回る仕組みを作りたい。

 僕たちは、村人へのお礼に早朝から市場で仕入れた食材を使ってカレーを振る舞った。ラードで豚肉を炒め、キャッサバやグリーンピース、ジャガイモの原種と言われている「インカのめざめ」を入れて、最後にカカオとハチミツを加える。みんな「これまで食べた料理のなかでいちばん美味しい」と大喜びしていた。

 この時、川手さんは村人たちに将来の夢を聞いて回ったのだが、「フェラーリに乗りたい」とか「お金持ちになりたい」とか言う人は一人もいなかった。返ってくるのは「この環境を守りたい」という言葉。彼らは、アマゾンの環境汚染をひしひしと感じているのだろう。

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 アマゾンで暮らす人たちにとって、食べることは生きること。食べることに一日のうちの大半の時間を費やしている。狩猟採集生活では、毎日確実に食べられるとは限らない。仕留めた獲物は無駄にすることなく自分たちの血や骨にする。

 銃で狩りをすればもっと効率よく食料を得ることができるのかもしれない。だけどそれは乱獲に繋がる。アマゾンの住民は「弓矢を使って対等な力でやり合うのが、生態系に対する礼儀だ」と言う。そうやって生態系を守っているのだ。