開店準備がコントみたいなことに・・・

ルワンダでタイ料理屋をひらく

 お店のリフォームを進める様子が・・・というか、進まない様子が書かれていたところです。いろいろびっくりでした。

 

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 さて今日は、ドアをつけよう。カーペンターと現場で落ち合う。まず指定の時間に落ち合うのが至難の技。約束の時間に全然来ないのだ。

 電話をすると、「アーム、カミング」と呑気な返事が来る。

 アイム・カミング、今向かっています、ということだ。ならば待つ。でも来ない。電話する。

「アーム、カァミング」

 待つしかない。来ない。電話する。

「アーム・カァミィング」

「いやどっから来とんねーん!!」と私がついにブチギレて、日が暮れる。そして朝が来るとリセットされている。ここは時空が歪んでいるのか……?もう、徹底的に連絡しまくるしかない。

「おはよう。今どこ?」

「もう家出た?今どこ?」

「で、今どこ?」と、朝からストーカーのようにしつこく電話を入れまくる。

 相手も、このくらいプッシュされないと、「あぁ、一回しか電話かかって来なかった、大した用じゃないんだな」となるのだ。

 ・・・世界標準に照らすと、我々日本人はとんでもなく律儀だったんだな。やはり、中にいると気づかないものだ。

 そしてこの「指定の時間に来てもらう」という大仕事を、ワーカーの人数分繰り返さないといけない。大抵、向かっている途中にアクシデントに巻き込まれたり、お葬式に行かないといけなくなったり、ファミリーイシュー的なサムシングが発生したり、「ビッグプロブレム」に遭遇したりして、来られなくなるらしい。・・・

 とうとう現場で落ち合うことができる頃には、既に一日のエネルギーの大半が消耗されているが、まだ始まりだ、頑張っていこう!

 張り切ってカーペンターに説明する。・・・自分のスマホで「Sliding door」とググって、ユーチューブで動画を見せる。

「はいはい、横にスライドするドアね、知ってる知ってる、任せて!」

 良かった。なんでも動画が簡単に出てくる現代に生きていて良かった……!と思ったのも束の間、思いっきり開戸が付いた。・・・いやいや、動画見せた意味……!

「はぁ~?動画見せたじゃない!!知ってるって言ってたよね⁉」

「レールのパーツが、予算内で買えなくって」

「あー、それじゃあ仕方ないね。じゃあ引戸は諦めて開戸を……ってなるかいぃ!!」

「こんなの大した違いじゃないよ、開戸でもノープロブレム!」

「お前が決めるなー!!」

 私だけゼェゼェ言いながら、振り出しに戻る。・・・この間にも、自称プランバーが取り付けた水道からは水がバシャバシャ漏れていて、自称電気技師が作業をしている間に大きな火花が何度も飛び散る。これでは、体がいくつあっても足りない……!

 ・・・

 死にものぐるいで一つ一つの施工を進め、キッチン設備やテーブル、椅子なども揃いつつあり、なんとか年内にはオープンできそうだ。

 そろそろスタッフのトレーニングを始めなければ。・・・

 オープニングスタッフの募集は既に進めてあった。五十人ぐらいの候補者を相手に、電話で相手の英語力を探りつつ、いいと思った人とは実際に面接をする。初めてのことだらけで四苦八苦する私を見て、マリコさんがアドバイスをくれた。

「まず面接の時間を指定する時に、『うちは時間を守れるかどうかを見るから、遅れないように。遅れるならワン切りでもいいから連絡をすること』って言っておいた方がいいよ。面接時間は守るもの、という概念がそもそもない人もいるから、時間を守れた人を採用しようって思ってたら、候補者いなくなるかも」と、またサラッと衝撃的なことを言う。

 全体的に時間にルーズなことは感じていたが、必死に職探しをしている人ですら面接に遅れてくるとは、恐るべし。

 ・・・

 候補者たちは、面接にかなり気合を入れて来てくれた。白タキシードに蝶ネクタイでキメて来る男性や、中にはヒョウ柄のボディコンに身を包み、真っ赤な口紅を塗って現れた女性もいた。……いやいや、タイ料理屋のホールスタッフですけど?と戸惑ったけど、それがどうやら一張羅のようだ。ルワンダでは、服装で人を判断する文化があるようで、みな面接にはそれぞれの一張羅で臨んでくれたのだ。

 ・・・

 ・・・「ちゃんと服装に気を遣っております」という、リスペクトは十分。けれど、時間については、やはりそれでも遅れる人が散見された。・・・

 ・・・

 ついに、候補者の方々をトレーニングに迎え入れる日がやって来た。・・・

 ・・・

 ホールスタッフのロールプレイングでは、注文内容を正確に理解できるか、伝票を自分で計算して作成できるかを見るために、メインディッシュ、サイドディッシュ、ドリンクなどで構成されるメニューを用意し、私がお客さんの役をする。

「ハーイ。メイ・アイ・オーダー?(注文いいですか?)」

「エクスキューズミー?」と候補者。最初だから緊張しているのかな。ゆっくり話そう。

「ハーイ。メイ、アイ、オーダー?」

「……エクスキューズミー?」

「メイ・アイ・オーダー?アイ、ウド、ライク、トゥ、プレイス、アン、オーダー!」

「メ、メイ……?ホワット?ウィッチワン⁉」

 いやいやいや、注文させてくれ。・・・英語での会話能力が厳しい人が案の定、一定数出てきた。改めて絞った上で、今度は伝票作成ができるかを見てみよう。

「ハーイ。メイ、アイ、オーダー?」

「イエス、プリーズ」

 滑り出しは順調だ。

グリーンカレーを、トッピングはチキンで。ライスはブラウンライス(玄米)にしてください。ドリンクはコーラをお願いします」

「かしこまりました。ご注文繰り返します。ブラウンカレーがお一つ」

「いやいや、ちょ、ちょっと待って、ブ、ブラウンカレー⁉」

 珍回答続出で、みなの想像力・発想力には大いに感心した。感心したが、伝票作成を正確にできた人は、十名ほどに絞った候補者の中に、二名しかいなかった。これもなかなか長い道のりになりそうだ……。本当に来月開店できるのだろうか⁉