ルワンダでタイ料理屋をひらく

ルワンダでタイ料理屋をひらく

 読んで想像するだけで、いやいや無理無理ってなってしまいますが・・・未知の世界にこんな風にワクワクできるって、すごいなぁと驚きました。

 

P10

 2015年8月某日。五歳になった息子ミナトと、再びルワンダの地に降り立つ。

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 先月までは大企業のサラリーマンをしていた。待遇は良かったけれど、いつからか聞こえ出した「あなたの人生これでいいの?」という心の声が止まない。・・・

 遠くに行きたくて社内制度のリフレッシュ休暇をとった。そう、「リフレッシュ」して、また元の生活に戻るはずだった。ところが、この旅行でのルワンダとの出会いが、私の人生を変えたのである。

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 無に帰れた。心を空っぽにして、ただただ夜明け前の空気に包まれる。いつからか機能制御がかけられていた五官が解放されていくような感覚。・・・体の細胞一つ一つが自然界と共鳴し、目覚めていくかのようだった。・・・

 うん。そーね。ルワンダに引っ越そう。

 三十歳の誕生日を迎えながら、私は決めていた。ごくごく自然な流れに感じた。

 そんな風に、導かれるようにルワンダ行きを決めた私だけれど、一応プランはある。それもズバリ、タイ料理屋を開く!

 ・・・実は旅行で訪れた際に、ルワンダでタイ料理屋を開くところまではもう決定していた。はじめにルワンダに移り住みたいという願望があって、子どもを連れて一人で行くんだけど、当然生活の糧がいる。何かしないといけない。旅行中に気がついたのは、まずとにかく飲食店のバリエーションがない。単純だけど、レストランを開くのはどうだろう?

「タイ料理屋とか、絶対いいと思う」と現地に住む友人のマリコさん。よし、それならタイ料理屋にしよう。決定!

 マリコさんとその夫のシュン君は、移住のきっかけを作ってくれた夫婦だ。シュン君は実は私の幼馴染で、・・・職場の先輩・・・のマリコさんと結婚。そして、将来はアフリカで働きたいとずっと前から決めていたマリコさんを追いかける形で、ルワンダへ移住した。

 昨年の旅は、彼らを訪ねる旅だった。そして今、今度はルワンダでそれぞれ事業を興し、生活を築こうとしている。縁とは本当に不思議なものだ。そんな縁で結ばれたマリコさんがタイ料理が良いと言うなら、きっと間違いない。タイ料理なら、私も大好きだ。・・・作れるかって?作ろうとしたこともないから、わからない。でも、飲食店ならお客さんとして利用したことがあるから、どういう商売かは多分知っている。バーミヤンでアルバイトした経験もあるぞ。料理の腕に自信があるかって?特にない。料理好きでもない。って、こんな調子で大丈夫か?わからないけど、やってみよう。

 もう少し真面目に考えてみると、ルワンダは、安定した治安を生かして国際会議の誘致に積極的に力を入れるなど、国として観光業を経済成長の柱の一つとして掲げている。その関連産業として、今後外国人向けレストランは成長しそうだ。・・・

 ・・・

 そんな風に後から情報を繋ぎ合わせて、もう一人の自分が「アフリカで日本人がタイ料理ってどういうこと?」と問いかけてくるのをなだめつつ、東京でやっておくべきことを考えた。

 会社生活の終盤は有給消化期間があったので、有名なタイ料理人がやっている教室などに片っ端から予約を入れ、足を運んだ。・・・

「これからアフリカへ渡ってタイ料理屋を開こうと思っている」という私の発言に、先生やその他の生徒さんはへぇ~と目を丸くしながら一様に、ちょっと何言ってるかわからない、という表情だった。まぁ良い。自分でもよくわかっていないのだから。

 バタバタと過ごすうちに出発の日は近づき、タイ料理についてはざっくりと知識を入れ、「飲食店開業完全マニュアル」といった本を数冊ざっと読んだ状態でルワンダに到着。まぁ全ては始めてみないとわからないよね。案ずるより産むが易し!やはり不安よりも、未知の世界に対する圧倒的なワクワク感に、スパイスのように効いた緊張感がほんの少し混じっているだけだった。