ボーダレス

人類を前に進めたい チームラボと境界のない世界

 

 この辺りも興味深かったです。

 

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猪子 実はこれまで、直接的に「ボーダレス」っていう言葉は使ってこなかったんだよね。

 今、世界はおぞましい方向に向かっている気がして、そんな空気の中で、境界なく連続していることが美しい世界をつくりたかったんだ。

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 これまでは、作品というのは作家の思いが物質でできたモノに凝縮されていたわけだけど、デジタルテクノロジーによるアートは物質から分離され解放されたので、作家の思いは、モノではなく「ユーザーの体験そのもの」に直接凝縮させていくという考えでつくっていくことができるのではないかと思っていて。そうなったときに、モノを博覧的に並べるのではない、もっと最適な空間や時間のあり方があると思うんだよね。

 たとえば人間は動くことがより自然であるから、人々の体験に直接凝縮させることが作品であるならば、作品自体も人々と同じように動いていてもいいと思うんだよ。

 あとは、人の時間は刻々と進んでいくのに、作品の時間は止まっていたり、映像だとカットが入ったりする。それが時空の境界を生んでいると思っていて、その時空の境界もなくしていきたいんだよね。

 

宇野 ・・・チームラボの展示は、人間から能動的に没入しなくても、自由に動き回る僕らに対して作品側が食らいついてくるんだよね。・・・

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 ・・・これらの作品は人間と時間との関係に介入している。「これ、もう観たっけ?」と思いながらウロウロする、あのとき僕らは通常の空間感覚を喪失して、さらには時間の感覚も麻痺しているのだけど、この「迷い」こそが作品体験になっているわけだからね。

 

猪子 そうそう、作品と自分の肉体の時間が自然と同調して、その境界がなくなってほしい。ただ、自分の肉体の時間と境界を感じにくい時間軸の世界をつくるわけだから、それってどこかで現実世界そのものになっていくんじゃないかな、とも思うんだけどね。

 

宇野 何年か前、猪子さんが「21世紀に物理的な境界があるなんてありえない」と言っていたときから、このプロジェクトは始まっていたんじゃないかと思う。

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 ・・・今はモノという空間的なものよりも、時間のほうが世界を分割していると思うわけ。

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 時間はコピー不可能なんだよね。・・・チームラボの今回の展示って、時間感覚によって作品が変化するから、一回一回の体験が固有のものになる。

 

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猪子 たとえば強い個として認識されているものも、当たり前だけど世界との連続性の中の一部であって、些細で小さなものの連続性の集合の中で偶然的に生かされていて、そのこと自体が非常に美しいと思っている。それから、僕らが確実に見えていると認識していることや、当たり前に普遍的だと信じていることすべては、世界との連続性の中で、本当は脆く儚いと思うんだ。

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 やっぱり人類を前に進めるためには、固定観念を破壊する必要があるんだよ。破壊と創造はセットだと思うしね。・・・