シェアのかたち

人類を前に進めたい チームラボと境界のない世界

 こういう話を聞くと、未来が楽しみになってきます。

 

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宇野 シェアって、これまでにたぶん二通りの考え方があって、ひとつには「みんな我慢して分け合おう、思いやりは大事」みたいな考え方で、根本的には世界を有限とするゼロサムゲーム的な世界観によるもの。もうひとつは、そこから一歩踏み込んで、情報技術を使えば普段僕たちが気付いていない隙間をたくさん発見してそこを使えるよ、って発想だと思うんだよね。それがシェアリングエコノミー的なものにつながるんだと思う。どうせ余っていたり使っていないものだったら、見ず知らずの人に使ってもらってお金をもらったほうが「コスパがいい」という考えだね。

 でもこの作品が提示している「シェア」って、そのどちらでもなくて、みんなが同じ空間にいて、同じ作品に接しているんだけれども実はそれぞれ別の夢を見ることができているんだよね。言ってしまえば、自分勝手な欲望で空間を占有しているだけなんだけど、チームラボの介入によってそれが他者からは、ほかの誰かの欲望が吐き出されたものだと気付かれることなく、逆にすごく美しく見えてしまう。

 要するにここでは「バラバラのものをひとつにしてつなげる」のではなく、「バラバラのものをバラバラのままつなげる」公共空間が出現している。これって、新しいパブリックの概念を体現していると思う。

 

猪子 今まではパーソナルなものとパブリックなものに境界があったと思うんだよね。そんな中で、アートの力によって、パーソナルな存在すらもパブリックとして価値が上がるものの存在に変換できる可能性に気付いた。それで生まれたのが、「パーソナライズド シティ」というコンセプトなんだ。

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宇野 これまでは、プライベートが優先される領域と、パブリックが優先される領域がハッキリと分かれていた。要するに、僕らはいろいろ我慢して、税金を払って法に従ってパブリックを維持する。しかしそうすることで、プライベートの権利を国家に守ってもらえる、と考えてきた。だからパブリックな場というのはプライベートな自分を我慢して殺すことが要求される場所になっていた。

 でもこの考え方には当たり前だけど限界があって、まず十分なパイをシェアできる状態じゃないと、とても耐えられなくなる。そしてそのために、この発想でやっているとどうしても人間は友敵の間に境界線を引くようになる。つまり、集団をつくって競争に勝ち抜くことでたくさんパイの配分を得ようとするようになってしまう。

 対して、猪子さんが今やろうとしているのは、プライベートとパブリックの境界線を消失させることで、街の公共空間という極めて限られた空間をゼロサムゲーム的なシェアから「解放」するということだね。というか、これからのパブリックはプライベートを制限する場所ではなく、プライベートな言動が他者にとっての価値を自然と生んで「しまう」ものでしかあり得ない、というわけだ。

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猪子 ちょっと話が飛躍するけど、その都市の話の延長で、21世紀の間に固定的な領土を持たない、境界が曖昧な国家ができるんじゃないかと最近思っていて。超大規模なグローバル企業ってそこらへんの小国よりも経済規模が大きいわけだよね。

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 別にグローバル企業じゃなくても、既存の国家の枠組みとは違う法体系で社会を形成したい集団が増えてきたとき、領土を持つ国家からその一部をシェアしてもらう新しい国家のかたちがあり得るなと思うんだよね。

 するとたとえば、国防とかってその新しい国家には必要ないと思うんだよ。・・・基本的にその新しい国家の資産って、国民と国民が生産する価値でしかないので、戦って守るものがないはずなんだよね。あとは、社会インフラの問題も、お金を払って間借りすれば良いと思ってて。

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宇野 ・・・エストニアってすでにそれに近い発想の国家だと思うよ。要はバルト三国って・・・いつロシアが攻め込んでくるかわからない状況なわけだよね。で、領土としてのエストニアがなくなっても、仮想通貨とか暗号通貨とかによって、ソフトウェアとしてエストニアの精神が残っていれば良い、と。しかも、そのエストニアのソフトウェアとしての価値が、仮想通貨によって象徴されて、世界中に流通していくことまで狙ってるわけだよね。

 

猪子 たしかに、エストニアはそうだね。

 

宇野 一般的に、カリフォルニアン・イデオロギーのようなものって、国家と相性が悪いと思われている。でも、実際は猪子さんが言ったようなかたちでの国家と新しい経済の結託が起きて、国家観そのものの更新のほうに行くシナリオは大いにあると思うよ。

 

猪子 ・・・そういう意味では国家がシェアされ始めると、人々は「どこに参加するか」という部分のみを決定していくことになるわけだよね。・・・