出会い

絵画の向こう側・ぼくの内側――未完への旅 (岩波現代全書)

 出会いって不思議だなということと、サッと出会ってサッと次に、というのもなるほど大事かもと思いました。

 

P168

 一九六七年のニューヨークにもし遭遇しなかったら、現在の自分は随分変わった精神の道を歩んだことだろうと思う。そう思うと、時代と場所との出会いも不思議な因縁があると思う。だけどこの因縁を、いつまでも引きずってはならないとも思う。サッと出会って、サッと関係を済まして、サッと次の状況に移ることだ。いつまでも引きずっている因縁は腐れ縁になる。

 

P241

 一九六七年だから、もう四七年前になるが、この年ぼくは初めてニューヨークに渡った。・・・この頃ぼくのポスターをコレクションしているポスター・オリジナルズというポップ・アーティストのポスター専門のギャラリーがあったのでそこを訪ねた。以前から、ぼくのポスターをコレクションしてくれていたのだ。すると「実は来週からあなたのポスター展を開催する予定だ」と聞かされ、ぼくが突然現れたことにギャラリーのオーナーは驚いたが、それ以上にぼくだって驚いた。

 ・・・個展が開催されるその現場に、ぼくが立ち会うことの偶然と幸運に何か運命的なものを感じた。展覧会の結果は展示作品全体をMOMAが買い上げてくれた。しかも一点が一〇〇ドルだ。この金額は当時のアンディ・ウォーホルの『マリリン・モンロー』と同額だった。何かと気をよくしたオーナーは、ぼくにさらにオリジナル作品のポスターを依頼した。テーマは「NEW YORK」である。ぼくは早速タイムズ・スクェアのスーベニール・ショップで大量の自由の女神のポスト・カードを購入して、それをコラージュした作品を制作した。

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 ポスターはたった一日でできた。印刷は日本で行ったが、流通はこのポスター・オリジナルズを通して販売された。当然このポスターもMOMAに収蔵されることになり、その後、この❝NEW YORK❞はMOMAのカレンダーになり、ポスト・カードになり、昨年はグッズとしてマグネットにもなり、現在もMOMAミュージアム・ショップで販売されている。・・・

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 ポスター・オリジナルズのオーナーのファーランドさんはどうしているだろう。ご主人はすでに一〇年前に亡くなっているが、夫人はお元気であろうか。もし彼女にあのタイミングで出会っていなければ、MOMAの個展もなかったかも知れない。すると、その後のぼくの人生も別の道をたどったに違いない。そんなことを考えると人と人との出会い、そんな縁を演出する運命っていったいなんなんだろう?・・・