農業新時代

農業新時代 ネクストファーマーズの挑戦 (文春新書)

 こんなにユニークな、すごい方々がいたなんて、驚きでした。

 著者の肩書きが「稀人ハンター」というのも、素敵だなぁと。

 

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「僕は農業って最高だと思ってますよ」

 2018年5月、「NewsPicks」という経済メディアの取材で、杉山ナッツのオーナー、杉山孝尚を訪ねた。その時、彼がなにげなく言ったこの言葉が、日本全国、新時代の農業を担う人々を巡る旅のきっかけとなった。

 詳しくは第一章で述べるが、杉山は、世界4大会計事務所のひとつ、KPMGのニューヨークオフィスで働くエリートだった。しかし、あることがきっかけで30歳の時、故郷の浜松に戻って落花生の在来種「遠州小落花」の栽培を始めた。それまで農業に縁がなかった彼が頼ったのは、書籍とグーグルとYouTubeだった。まったくの独学で、無農薬、無化学肥料で落花生を育て、加工し、それをひと瓶1000円以上するピーナッツバター「杉山ナッツ」として売り始めたのが2015年。それから4年たったいま、2万個を生産し、すべてを売り切るまでに成長させた。

 栽培方法から加工、営業、販売まで、杉山の話はアイデアと工夫のオンパレードで、話を聞きながら、何度、驚きの声を上げたかわからない。・・・

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 あらかじめいうと、僕は農業の門外漢である。普段は「稀人ハンター」という肩書きで、ジャンルを問わず、「規格外の稀な人」を追いかけて、取材やイベントをしている。僕の大事な仕事のひとつが「稀な人を発掘すること」で、ある時、「浜松に面白い人がいる」という情報を得て、杉山に会いに行ったのだ。

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 ・・・農業のイメージを変えるその姿は、いまの仕事や暮らしがしっくりこない人にとって、なにか刺激やヒントになるかもしれない。にわかに農業への関心が高まった僕は、各地を訪ね歩いた。杉山を含めた農業界を革新する10人が登場する本書は、その記録だ。

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 彼らの生き方にも、注目してほしい。僕は仕事柄たくさんの起業家やビジネスパーソンに会ってきたが、この本に登場する10人には、目の前の利益を必死で追い、上場を目指して邁進するベンチャー企業のシャープな雰囲気とは違う、ドンと構えるスケールの大きさと温かさを感じた。それはきっと、お天道様のご機嫌次第でいろいろなことが左右される特殊な仕事に携わっているからで、些細なことには動じなくなっているのだろう。