僕が手にいれた発達障害という止まり木

僕が手にいれた発達障害という止まり木

 がんばればできそうだけど?と思われがちな方に参考になる本だなと思いました。

 とてもわかりやすくて、読んでよかったです。

 

P52

花緑 僕が最初に診断されたLDとは、どういうものですか?

 

岩波 LDに関しては、知的障害と混同している方もいるようですが、まったく両者は別のものです。知的障害はないにもかかわらず、読むことが苦手な「識字障害」や、計算や数字が苦手な「算数障害」など、特定のことだけが苦手なのがLDです。だから正式な名称に「局限性」という言葉が入るわけです。

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 師匠は言葉を読んだり書いたりするのが苦手なのに、言葉を使う仕事をするようになった。これは、ちょっと不思議な気がします。落語の噺は、ポーンと頭に入ってくるんですか?

 

花緑 人と比較できないのでわからないんですけど、そんなに記憶力がいいとは思いません。だから何度も何度も繰り返さないと、頭に入らない。

 

岩波 大変ではあるわけですね。

 

花緑 はい。大変さに慣れただけで、いまだに大変であることに変わりはないです。

 

岩波 集中は続きますか?

 

花緑 難しいですね。稽古に集中すると、すごく疲れてしまう。ですから、自分がしゃべったのを録音しておいて、覚えるのに疲れたら、それを聞くようにしています。そこから記憶を刺激する。食事中や黙ってリラックスする時間になんとなく聞いていると、またしゃべりたくなります。

 

岩波 やはり「しゃべりたい」というのが、根本かもしれませんね。

 

花緑 そうかもしれません。でないと、こんなめんどくさい作業はできませんよね。

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 そういえば僕の祖父である五代目柳家小さんは、小学生のころ、授業中に騒いだり勝手なことをするので、先生方も持て余してクラスをたらいまわしにされていたそうです。その際、申し送りで、「とんでもないのが行くぞ~」と言われる。

 ところがある女性の先生が、好きなものを与えておけば静かになるだろうと思って「小林君(本名)、何が好きなの?」と聞いたら、「話をするのが好きだ」と。するとその先生は、「じゃあ、小林君が話をする時間を作ってあげるから、その代わり先生の話も静かに聞いてね」と言って、〝小林盛夫のお話の時間〟を作ってくれたそうです。それでおとぎ話や笑い話をみんなの前でするようになったら、これがかなり受けたらしく、そのうち他のクラスからも〝小林盛夫のお話の時間〟の出前を頼まれるようになったとか。

 

岩波 その先生は見事ですね!お話をうかがうと、おじいさまはADHDの可能性がありますね。そしてその女性の先生は、おじいさまのいい面をうまく引きだした。まさに個別対応のお手本だと思います。

 

花緑 祖父は・・・記憶力が半端じゃない。一回聞いただけで、全部覚えてしまうんです。だからノートもとらずに、何百という噺を記憶しています。前座時代、午前中に師匠から教わった噺を夜の寄席で披露し、しかもそのできがすばらしかったそうで、ちょっとした伝説になっています。

 

岩波 それはまさしく、天才ですね。発達障害の人のなかには「サヴァン症候群」といって、まれに天才的な記憶力をもつ人がいます。文字を映像として記憶できる人もいて、本を一回読んだだけで全部記憶できたりする人もいます。おじいさまの場合、そういった特性を持っていたのかもしれません。

 

花緑 そういうところが、祖父に似たらよかったんですけどねぇ。

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 うちは母もねぇ……(笑)。とにかく人の話を聞かずに、ずーっとしゃべっている。これがまた、おもしろいんです。落語やったら、いい噺家になったんじゃないか、というくらい。

 それと、思いつきでパッと動いちゃう。衝動的なところも多いと思いますね。買い物も衝動的かも(笑)。

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岩波 ADHDASDも、「障害」という言葉がつくし、病院では疾患という捉え方をします。でも、はたしてそうなんだろうか、とも思います。

 研究によると人口の3~4%はADHDだと言われていますが、実際は5%以上いそうです。ということは、20人に1人ですよね。決して、特別な例とは言いきれません。病院の医者でも、けっこうそれらしい人はいますよ。ご自分は認めないですけどね(笑)。

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 ・・・いわゆる疾患ではなく、「特性」、あるいは「個性」と捉えたほうがいいのかもしれません。まわりが理解しないから、不当に非難されたり、ときには差別されたりもすることになる。

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花緑 発達障害と診断された場合、自分の障害とうまくつきあうにはどうしたらいいんでしょうか。

 

岩波 たとえばASDの方が農業に従事していたとして、そうそう問題は起きませんよね。・・・こだわりが強い分、もしかしたら、人とは違った栽培法などを開発するかもしれません。・・・

 また、地方の小さな自営業などでは、ADHDやLDがあったとしても、とくに不便はないでしょう。このように、発達障害の方の社会との関係は、「状況依存性が強い」と言えると思います。かみくだいて言うと、置かれた状況によって、困難が生じることがあるし、逆にとくに困難が生じない場合もあるわけです。ですから、当事者が今いる状況でなにが問題になっているかという点を、まず把握することが大事です。それに対して、環境を調整することが可能かもしれません。