ゴージャスな無駄っていいなぁ・・・と思いました。
P52
たとえば野生の動物は傷を癒すために、ただじっとしているのだという。たとえば「脳を空っぽにしたい」と願い続けるミサさんは休みの日に、何をするでもなく、ただ自分の部屋でぼ~っとしているらしい。たとえばかなえさんは、スウィングの多くの人がトランプやUNOに盛り上がっている昼休みに、ただ椅子に座って足をブラブラさせていたりする。
野生動物とミサさんやかなえさんを並べるのもどうかと思うが、僕にはこのように時間を過ごすことがなかなかできず、「いつも何かをしなければいけない感じ」に囚われている。これは、多くの現代人が罹患している「病」のようなものではないだろうか。
・・・
・・・せっかくの休日に「ただぼ~っとしている」ミサさんの、せっかくの昼休みに「ただ足をブラブラさせている」かなえさんの、「尺の使い方」のなんとゴージャスなことだろう。無駄、無駄、無駄。そこにはきれいさっぱり、ゴージャスな無駄しかない。けれどそんな「何もしない時間(何もしていないように見える時間)」が人を休息させたり回復させたり、メチャメチャ大切なのだと思うし、ふたりが柔らかに発しているのは「せっかく生まれてきたのだから」という強迫的な押しつけではなく、「
どうせいつかは皆、死ぬから安心して。ね?」という、ついつい忘れがちな真実なのかもしれない。
……てなことを考えているとQさんが最近書いた大量の詩を見せに来てくれて、そのなかのひとつに冒頭の「Swingとは」があった(「天使らんまん。」て!)。ありがたい、ものすごいタイミングで放り込んでくれたものだ。そうだそうだ、僕はこういう場所で仕事をしているんだった。
P50 Swingとは/Q/2017
オラSwingとはなにか。
それは、
自由気まま。
天使らんまん。
なんでもありの、
場所であり。
好きな時に、
仕事をして、
お金をもうけたり。
もうけなかったりする。
所である。
P122 脳天気/辻井美紗/2013
自分は脳天気にくらしたい
今まで以上に脳天気にしたい
考える事もしたくない
のびのびと脳天気になりたい
脳を出しきって
空っぽになりたい
P206
ギリギリアウトをセーフに。どうしようもない弱さを強さに。そして、たまらん生きづらさをユーモアに。熱い理想を胸に口火を切って早12年。世の規定値を疑い、迷いと葛藤の絶えない歩みの中、それでも希望と突破口を与え続けてくれたのは、多くの人の「驚くべきいい感じの変貌」だったように思う(ヘタクソか!)。
いつも下ばかり向いていた増田さんが子ども相手にヒーローを演じるなんて。あんなに暴力的だったQさんが初対面の人の似顔絵を描くなんて。不安と緊張だらけのかなえさんが朝礼で発言するようになるなんて。でも増田さんは、Qさんは、かなえさんは、本当に「驚くべきいい感じの変貌」を遂げたのだろうか。何だか少し違う気がする。たぶん彼らは変わったのではなく、本来の、混じり気のない、素っ裸の自分へと還っているのだ。進歩とか成長とかではなく、知らず知らず背負ったり背負わされたりした荷物を少しずつ下ろして身軽になってゆくような、乾燥して縮んだワカメが水で戻ってゆくような、見失ってしまった三つ子の魂を取り戻すような、そんな感じなのではないか。