お友達のエピソードもすごかった・・・昨日のお話のつづきです。
P168
で、こんな脳天気な私には、やはり脳天気な友人がいる。大阪の音楽家の男性だ。
若い頃、無茶な生活をして、気がついたら余命3ヶ月の末期癌になっていた。
国立の大病院でそのことを告げられた彼は、悲しんでいてもしかたがない、残りの人生をどう過ごそうかと考えた。一度、離婚もしている。それまでは苦労も悩みもあったと思うが、心機一転、やりたいことをやって楽しく過ごして死のう、と決心したのだ。余命のことは黙って、友人達から金を借りまくって海外旅行に出た。もちろん返すつもりはない。旅先の地で野垂れ死にする覚悟だった。死人に金を返せ、というやつもいない。そうして行きたかったヨーロッパやギリシャ、ヒマラヤの地まで旅をして、毎日、面白おかしく暮らしていた。
そろそろ3ヶ月が過ぎようという頃、どうもまだ死にそうもない。変だな、と思いながらも旅費が尽きてきたので、いったん日本に帰ってきた。
「先生。ワシ、まだ死にまへんねんけど……」
国立病院を訪ね、再検査を受けた。担当医師が以前のレントゲン写真と見比べて仰天。癌がすっかり消えていたのだ。そのことを聞いて、彼もまた真っ青になった。友人達から借りまくった借金が、ずしん、と頭にのしかかった。
「ワシ、これからどうやって生きていったらええねん……」
落語みたいだが、私の友人の本当の話である。心の底から面白おかしく暮らすうち、体内の免疫細胞が浮かれて増殖したのかもしれない。癌細胞は食いつくされ、いつの間にか消えてしまったのだろう。
その彼も50代後半で再婚し、還暦の時に元気な男の子を授かった。
お祝いに病院へ駆けつけると、嬉しそうに満面の笑みを浮かべながら、「美内さん、ワシ、80歳まで働かなあきまへんねん。この子が二十歳になるまで……」。
大丈夫、心と体は繋がっている。