たまたまパリの本を続けて読みました。
ご両親もパリが大好きで、子どもの頃から憧れていた著者が、夫の転勤で叶ったパリ暮らしを語ってくれます。
お国柄の違いって面白いなぁと思いました。
P118
七月からの二カ月は、フランス中がバカンス・ムード一色に染まる。富める者も貧しき者も、猫も杓子も皆バカンスに繰り出すのだ。
四月の復活祭の休みが終わった頃から、
「ね、バカンスどこ行くの?」
「もう決めた?」
なんて会話をあちこちで耳にし始める。
・・・
昨日もデパートで、店員のオネエサマ方がバカンス情報の交換に夢中になっているのを見かけた。近隣の売り場同士集まって、どこのビーチが良かっただの、あそこの宿はよくないだのお喋りに興じている間、売り場やレジは無人状態。お客はほっぽりっぱなしである。まぁ、普段だって、腕組して店番していたりと、てんで愛想がないんだけれど。
オットに聞けば、職場の有給希望表は半年も前からとっくに書き込みが一杯で、まとめて休めそうな日なんか、もう見当たらないようだ。
とにかく、こちらの人々は休むことに命を懸けているようにさえ見える。力の入れ様も半端じゃない。たとえば、先日文房具屋さんで発見した「休暇計画カレンダー」なるものには久々のカルチャー・ショックを覚えた。
見開きの左ページには、有給休暇から始まって、生理休暇、家族のための各種休み、代休に至るまで、数多な休暇の日数を列記する欄があり、表の一番下でそれが合算出来るようになっている。
右ページは、一面すべて、書き込みスペース付きのカレンダーで、年間のお休みスケジュールの管理ができるようになっている。つまりこれは、取りもれのないよう、計画的にバカンスを取るための表なのである。ここまでくると執念の域に達している、と思ってしまうのは、休み下手な日本人の哀しい性かしら。
子供たちの学校が終わり、夏休みが始まった七月の最初の土曜日や、会社が休みになりはじめる八月頭の土曜日は、グラン・デパール(大出発)と呼ばれ、一年で一番道路が混む日である。日本で言えば帰省ラッシュのピークのようなもので、TVでも、盛んに「この日は避けましょう!」と連呼しているけれど、毎年必ず混む。
日本のお盆のように時期が限られ、数日間しかない休みなら、「一日たりとて無駄には出来ない」という気持ちも分からなくはない。けれど、年に数週間ものバカンスが認められているフランスで、混むのが分かっていてもバカンスのスタートダッシュをかけずにいられないというのも、我々日本人には、ちょっと理解しがたい。
・・・
で、何をするかといえば、何もしない。だってそれがバカンスだから。
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こう聞くと、そんな大したことしてないんだから、パリにいたって出来るんじゃないの?って思うでしょう?でも、「パリ=ストレスフル」というイメージが強いので、気持ちが休まらないようだ。
そしてなにより、バカンスに行かないなんて、フランスでは本当に考えられないとのこと。お金が無くてバカンスに行けない家の子供たちを海に連れていってあげる「SOSバカンス」なんて慈善運動だってあるくらいだ。
去年、管理人のマダム・ルクルーズに、
「バカンスはどこに行くの」
と聞かれ、
「長くは行けないから、ブルゴーニュに一泊だけ」
と答えたら、
「それはバカンスって言わないのよ。可哀想に……」
と本気で同情されてしまった。そして管理人さん夫婦は、娘夫婦を身代わりに残し、丸まる一カ月、故郷のポルトガルに帰ってしまったんだっけ。
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大統領や首相をはじめ、閣僚もしっかり数週間休む。新聞によると、シラク大統領はモーリシャス、ジョスパン首相は大西洋岸のシックなリゾート地・レ島でバカンスなのだとか。・・・我がバカンスと比べて庶民はため息をついている。
この時期、新聞もめっきり薄くなる。・・・テレビ局員もバカンス中なのか、妙に再放送や映画が多い。
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そんなこんなで、今年も小旅行に出かける以外は、静かなパリで過ごすことにした。湿気がないので、三〇度あっても木陰やパラソルの下は清々しく、この季節のパリは最高だ。いつになく静かな近所の公園で寝転がったり、空いている映画館に出かけたり、なんていうのも悪くない。・・・