原節子さん

原節子 あるがままに生きて (朝日文庫)

ただ、きれいな方がいたのだなぁ…という位しか、原節子さんについては知りませんでした。

その人となりが伝わってくるような本で、なんか色んな面でかっこいい方だなと驚きました。

 

P226

 ・・・『髪と女優』に、原節子の言葉が紹介されています。この言葉ほど原節子の生き方をよく伝え、胸を打つ言葉はありません。孫引きになりますが、素晴らしい言葉なので引用します。

 

 わたくしはどなたにも消極的だといわれますが、生まれつき欲が少ない性格なのかもしれません。おいしいものが食べたいとか、いいお家に住みたいとか、いい着物を着たいと思わないのです。

 ですから損得でものをしゃべったり、行動したことはございません。自分を卑しくすると、あとでさびしくなるのでそういうことは一切しないようにしています。そのために、おカユしか食べられなくなっても、いたし方のないことです。映画でも、わたくしのやる役柄は狭く限られておりますが、この役柄を深く掘り下げていって、ただひとりの観客の心にでもほんとうにしみ入ったら、ということがわたくしの願いです。

 女優としてりっぱでありたいというのがわたくしのいつわらぬ気持ちです。

 

 原がこのような諦観ともいえる言葉を述べたのは一九六〇年頃のことです。

「自分を卑しくすると、あとでさびしくなるのでそういうことは一切しないようにしています」と話す原は、見事というほかありません。・・・

 一九六〇年といえば、原は四十歳という若さですが、映画生活二十五年の彼女が、実際に歩んで来た道から得た言葉には学ぶべき点が大いにあると思います。

 一九六〇年は、原が『秋日和』に出演した年です。役の重さや華やかさからいえば、『秋日和』は原の映画人生の最後を飾る映画と見なせます。この作品のあと、原には四本の映画しか残っていません。一九六一年に二本の作品、一九六二年にも二本の作品に出演して、彼女は銀幕を去っています。