ほぼ日の経営

すいません、ほぼ日の経営。

 タイトルに「すいません」と入っているのは、糸井さんが「これがほぼ日の経営だ、と大上段に言えるようなものじゃないという気持ちがあったから」だそうです。

「ほぼ日の行動指針」は「やさしく・つよく・おもしろく」だそうですが、その「やさしく」は「私たちの会社が社会に受け入れられるための前提となるものです。相互に助け合うということ、自分や他人を『生きる』『生かす』ということです」とあって、いいなぁと思いました。

 

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糸井 ものすごく稼いでいる人が、果たしてなんのために稼いでいるかと考えると、一種のゲームのようになっていると思うんです。稼ぐために稼ぐ、というか。

 けれどいまの時代、給料というエサだけで人は本気で動かないのではないでしょうか。お金で人材が釣れる時代は終わったような気がしています。

 

―ではいまは、人はなにに動かされるのでしょう。

 

糸井 人によろこばれているという実感ではないでしょうか。あるいは仲間がうれしそうにしている、ということ。

 たとえばプロ野球の選手たちは、優勝の胴上げの瞬間に一番うれしそうにしています。そこで「俺が一番多く打ったんだよ」といばる人はいませんよね。一方で、選手としてはあまり力がないけれど、「あいつを胴上げしようぜ」と言われるようなこともある。そういうことも含めてチームの力なんです。

 

―たしかに会社でも、仲間と一緒によろこぶことが働くことの本質なのかもしれません。給料は毎年少しずつでも上がってほしいと思いますが。

 

糸井 もちろんです。それはどの会社もやっているし、できなくてもやろうとしているのではないでしょうか。

 ただ、給料だけを目標にして、眉間にしわを寄せて働くのが、ぼくはあまり好きではないんです。伸び伸びと働いていたら業績が上がって、じぶんの安心や安定が生まれて、人のことを考えられる余裕ができる、というのがいいんでしょうね。

 

―きっと、会社は本来そういうものなんですよね。

 

糸井 本来かどうかはわかりませんが、うちはそうなってくれたらいいなと考えています。ただ、まだまだです。あまり「つよく」はないですから。もっと「つよく」ならないと人を助けることもできません。

 

―糸井さんの言う「つよさ」とは、どういうことでしょうか。

 

糸井 「現実にする力」です。「ぼくらができることはこんなものです」ということを実際にやってしまう力、とも言えます。・・・

 

―外から見ていると、ほぼ日は斬新なことをグイグイやっているイメージがありました。実態に触れてみると、もう少し違うのかもしれませんね。

 

糸井 うちは案外、保守的なんです。思い切ったことをやろうと思えばできるけれど、思い切ったことをすること自体に意味があるわけではなくて、よくしていきたいんです。

 なにか特別なことをしているわけでもありませんし、「これをやってみたけれどダメだったね」ということもいっぱいある。ダメだったら少しでもよくしていけるように、また変えていけばいい。

 たとえば、うちは女性社員が多いから、子どものことや家庭のことを真剣に考えていないと、働く環境をよくしようとしても、へんな答えを出してしまう可能性があります。

 

―女性の働き方については、世の中でもずいぶんと取りざたされていて、結局なにがいいのか答えもわからない中で、みんなが「やらねば」と思っています。難しいテーマですが、ほぼ日ではどんなことをしているのでしょうか。

 

糸井 目新しいことはしていません。会社の中で女の人が働きづらく、伸び伸びとできないのが一番つらいことですよね。ルールでは「どうぞ」と書いてあっても、ルールでないところで「どうぞじゃない」ということもあって、それでは意味がないと思うんです。

 ほぼ日の場合、そこはできている気がします。つまりルールをきっちりつくったから終わり、ということではありません。

 だいぶ前、ほぼ日の社員がまだ少ないときに、「きちんと時間を守って遅刻をしない人が、だらしない人を非難しないように」とみんなに言ったことがあります。「きっちりできる」ということだけが、ほかに増してなによりも大事なことではないんです。

 

―けれど会社では、きちんとしていることが求められます。

 

糸井 そうなると、ダラダラさぼっているように見える人を責めるようになって、さいごは、きっちりしている人だけの会社になってしまいます。

 ぼくは、それが目ざす姿だとは思っていません。ほぼ日もそうなってはいません。「身を粉にしてすべてを捧げられます」という人がえらくなってはダメなんです。

 もちろんそういう人がいてもいいとは思います。ただ、そんな人もそうではない人も大事だというのが、ぼくの根っこにあるんです。

 ・・・

―話を戻しますが、子育て中は早く帰っていいとか、決まりごとはありますか。

 

糸井 基本的に、「何時から何時までいます」と申告しておけばいいようにしています。産休や育休も、それぞれの人と相談して決めるようにしていて、長い人だと二年くらい休んでいます。

 

―誰にとっても平等な制度をつくるのではなくて、個別の事情に応じるわけですね。ただ普通の会社では、育休の人がたくさん出たことで、じぶんの仕事が増えたと愚痴を言う人もいます。

 

糸井 ぼくは、ハンディを負っている人に対して、そうじゃない人が意地悪になるのがとてもいやなんです。「じぶんは子どもがいる人のぶんまで責任を持たされました」ではなくて、「よーし、俺がやるよ。頑張ろう」となってほしい。

 いつ、じぶんが支えてもらう側になるかわかりませんから、じぶんが支えられるときは支える。それが社会というものです。会社も社会なので、「私がやるわよ」となっていけばいいですよね。

 そして、これはきれいごとではなく、うちでは割合、それができていると思います。そしてできている理由は、ルールの問題というよりも、人だと思っています。