ガチガチの世界をゆるめる

ガチガチの世界をゆるめる

 澤田智洋さんの本、「ガチガチの世界をゆるめる」も続けて読みました。

 強みは人とかぶる、自分ができないことは誰かを輝かせるためのすごいこと、など、なるほど~!と印象に残りました。

 

P40

 ぼくが息子の障害をあちこちでカミングアウトすると、いろんなご縁をいただきました。

 それで、いろんな障害を持った方々に実際に会ってみて、「みんな普通に生きてるな」ということに、だんだん気づいていくんです。

 決定的だったのが、成澤俊輔さんとの出会いです。

 成澤さんは先天性ではなく中途失明で、現在はほぼ見えていません。成澤さんと出会ったのは、息子の障害が発覚してから約半年後のことでした。

 彼は「世界一明るい視覚障がい者」というキャッチフレーズの持ち主なのですが、「目が見えなくても大丈夫ですよ」ということを、ぼくに教えてくれた人です。話していると、「大変なこともありますが、別に大したことではないし、普通に楽しいっすよ、アハハハ」みたいな感じなんです。

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 普段、成澤さんは障害者の就労支援の仕事をしているのですが、彼は「ぼくが目が見えないことで、みんなが安心するんです」と言います。「目と目を合わせてコミュニケーションを取るのが苦手な、シャイな方も多いんです。そういう人は、悩みをなかなか他人に打ち明けられないんですが、ぼくは目が見えないから、みんなが悩みをぶっちゃけてくれるんですよね」と言われて、なるほど!と思いました。

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 成澤さん以外にも障害のある方やその関係者を含め、たぶん200人以上の人たちと会いました。その中で、成澤さんと同じくらい印象的だったのが、日本ブラインドサッカー協会事務局長・松崎英吾さんです。松崎さんに「実は、ぼくの息子も目が見えなくて……」とカミングアウトしたときのことです。

 それまでは息子の障害をカミングアウトすると、驚くか、悲しそうな顔をするか、気の毒そうにするか、泣くか、といった具合にネガティブなリアクションしか返ってこなかったんですが、松崎さんは「ニヤッ」と笑ったんです。

 あとで理由を聞いたら、視覚障害者の人数が減っているせいか、ブラインドサッカーはけっこう選手層が薄いそうなんです。なので、「よしよし、ブラインドサッカーの選手の卵が見つかった」ということで「ニヤッ」とされたんだとか。ぼくはこの松崎さんの「ニヤッ」にも救われました。

 ・・・松崎さんの「ニヤッ」には、障害に何らかの価値がある可能性を感じられたんです。

 

P161

「本業」と「副業」という働き方がありますよね。

 ・・・いま、3つ目の働き方として「特業」というものを、ぼくはつくろうとしています。

「特業」は、その方の特徴、特技、特性を反映させた仕事です。それがいずれ本業になるかどうかは未定でも、「自分はこんな特業をやっています!」と宣言することで、人となりがわかるし、その特業にお金を払いたくなるパトロンのようなサポーターも出てくるだろうと考えています。

 もう実験は始まっていて、障害のある子どもたちに特業用の名刺を持ってもらい、仕事をしてもらっています。人によってさまざまな特業があるのですが、ぼくが好きなのは「ジャッジマン」という特業を持つ男の子です。

 彼は小学4年生の身体障害児なのですが、発語がちょっぴり苦手で、いつもなめらかに話せるわけじゃありません。だけどプロ野球の観戦が大好きで、特に審判がお気に入りなので、「アウト!」と「セーフ!」は堂々と言えるんです。なので、お母さんとも相談して、彼には「ジャッジマン」という特業をやってもらうことになりました。

「ジャッジマン」とは何か。彼に悩みごとを相談すると、「アウト」か「セーフ」でズバッと答えてくれるんです。たとえば、「最近忙しくて、湯船に浸からずにシャワーばっかりになっちゃってるんだけど、ダメかな?」と尋ねると、ジャッジマンは「セーフ!」と本当に力強く、はっきりと答えてくれるんです(笑)。相談者もこれで自信を持てますよね。

 また別のある人が「私、ここ数日飲み歩いてばかりなんだけど、こんなんで出世できるかな?」って聞いたんです。そしたら、回答までちょっと間があって「アウトー!」と(笑)。ジャッジマンなりの判断で答えるので、その間合いや溜めが面白いし、「アウト」「セーフ」を言い切ってくれます。堂々と判断してくれるから、言われた方も清々しい気分になるんです。これだけ曖昧な日本社会において、はっきり白黒をつけてくれることで、すごく人気があって、相談者だけでなく周りで見ていても面白い。こういう特業を、障害のある子どもたち、そしてお父さんお母さんと一緒につくっています。

 

P207

 強みってやっぱりいろんな人とかぶるし、似通っています。なぜかと言えば、強みというのは今の社会が決めた物差しの上で競っているものだからです。たくさん資格を取っても仕事がない状況が生まれているのは、その資格があなただけのオリジナルじゃなくて他の人とかぶっているからです。・・・

 逆に、強み以外の「弱み」、もしくは強みだとさらさら思っていないことにこそ、あなたが表出します。・・・

 だから、強みに頼りすぎる風潮は、けっこう危ないんじゃないかなと思っています。強みを頼りにしつつも、強み以外の「何気ない自分らしさ」も大切にして、全人格で、チーム自分で、この社会を生き抜くべきなのです。

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 ・・・「私これできます!」じゃなくて、「私これできません!」と堂々と言える空気にもなってほしいなと思います。「自分ができないことは、誰かを輝かせるためのすごいことなのだ」と自信を持っていいと思うんです。申し訳なさそうな態度はやめて、自慢してほしいです。