87歳と85歳の夫婦

87歳と85歳の夫婦 甘やかさない、ボケさせない (幻冬舎単行本)

 同じ話題について、それぞれの考えや思いが語られています。

 お互いに思いやってらしたり、全然違う捉え方をしていたり、夫婦って面白いなぁ、結婚62年てすごいなぁと思いました。

 こちらは夫婦喧嘩を避けるコツについてのお話です。

 

P24

メイコ

 老夫婦がしてはいけないこと、それは喧嘩です。喧嘩による感情の浪費やエネルギーのムダ使いはかなりのもので、・・・

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 顔を突き合わす時間をなるべく短くしていても、年をとると堪え性がなくなるせいか、はたまた長いあいだ、少しずつ心の底に堆積し続けた恨みつらみがかたちを変えて浮上してくるせいか、老夫婦というものは、顔を合わせる時間がたとえ短くても、ささいなことでカッとするもののようです。

 私もカッとすると、つい嫌なことを口走ってしまいます。そのままにしておくと、本格的な喧嘩に発展しかねません。だから、即刻、あやまります。

 先日も、「あんたのそのコート、早くしまいなさいよ」と言われ、ムッとしました。

「わかってます、あとで片づけますってば!」

 嫌な言い方をしてしまいました。すぐに神津サンの仕事部屋のドアをノックして、「申しわけございませんでした。今度はもう少し色っぽい言い方をしますから」「気持ち悪いから、早くあっち行け」。

 あちらもジイサンになってきたから、同じことを何度もクドクドと言います。

「ガスレンジのそのつけ方、危ないって言っただろ、ぐっと押し込んでから、ウンタラカンタラ……」。2回まではがまんしたけれど、3回目には爆発しました。

「わかっているってば!」

 そのときも、やっぱり神津サンの仕事部屋のドアをコンコン。香港からきた友だちという役を設定し、話し方を変えてみました。

「お宅の奥さん、年とってかわいそう。何回、同じことダンナさんが言っても、忘れるある。気の毒ね、ダンナさん」

「わかった、いいから、早くあっち行け」

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 夫婦は別々の人間。同じように感じたり、考えたりするわけではない、と思い定めて、無用な異論を挟まず、不要な衝突は避けることが年寄りの知恵でしょう。

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神津

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 夫婦は必要なことは言ったほうがいいけれど、不必要なことは、がまんするほうがいいのです。

 ヘアスタイルを変えても、ダンナは気づきもしない、とよく女性たちが文句を言っています。そのことで責められたら、「あんたは髪形を変えても、きれいなことに変わりないから、黙ってたんだ」とでも言っておけばいいのです。ようは自分から喧嘩を売らなければいい。「ひでえ髪してるな」とは、思っても決して言わないことです。よけいな摩擦を生むばかりなので。

 女房が凝っているのが、ネイルです。ネイルサロンとやらで、10本の指の爪全部に違う色を塗ったり、あの小さな面積に花びらなんかを描いたりしてもらっています。マニキュアくらい、自分で塗れよ、と言いたいけれど、それもがまん。

 ネイルサロンから帰ってくると。かならずぼくのまえに手をかざして、「きれいでしょ」と見せます。そのとき、ホントに言いたいのは、「だれが見るんだい?」。でも、「じゃあ、ほかの人に見せてくるね」と、あのおぼつかない脚で出ていかれても困りますから、「ああ、きれいだね」と答えておきます。

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 ・・・最期までなんとか仲良く添い遂げたいから、ウソも演技も演出も必要だと思っています。

 

 こちらは、「老いた自分自身をおもしろがる」というメイコさんのお話。

P129

「何をしに二階に来たのか夕立のなか」。どこのだれがつくったのか、いまの私には心にしみる川柳です。そういえば、知り合いの女性は2階へ週刊誌をとりに行くとき、階段を1段1段上りながら、たとえば、「週刊文春週刊文春、……」と唱え続けるそうです。最後の1段で、「もう大丈夫、言わなくても」と油断をしたら最後、金輪際、思い出せないと愚痴っていました。

 先日、神津サンに恥をしのんで、「お父さん、シャワーから出たら、私、〇〇をするから覚えておいてね」と頼みました。シャワーから出て、「私、何を頼んだっけ?」。すると、神津サンも「何だっけ?」。ふたりで大笑いです。