内田裕也さんとのお話、夫婦のご縁って面白いものだなぁと思いました。
P267
樹木 ・・・こんなこともあった。ある女優さんと内田さんが同棲しているころに、内田さんから夜中に電話がかかってきたの。同棲しているのは知らなかったんだけど、付き合っているというのは公に出ていたわけ。内田さんが言うには「あいつが浮気してやがったんだ!」って(笑)。「相手は〇〇〇〇だ。いま、家に電話して、文句言ったんだ」と言うから、「いたんですか?」と訊いたら、「いや、いないから、女房が出たよ」と。女房も女優さんなのよ。「あいつ(女房)は変わってんなあ!『私とは関係ありません』なんて言いやがんだ」って。その後、当人を呼び出してさんざん脅したみたいで、結局その夫婦は別れちゃったのよ。自分も不倫相手の女優さんとは別れたんだけどさ。……いったい誰に電話かけてきてるんだろうなあと。本当に理不尽。
是枝 理不尽ですね(笑)。でも、以前希林さんは、「生まれ変わっても、もう一度内田さんと結婚するか?」という問に、「もう出会いたくない。出会ったらまた好きになるから」と答えたんですよね?
樹木 誰が言ってんの、それ。
是枝 希林さんが言ったんですよ(笑)。
樹木 それは口からでまかせだな。いまはちょっと……やっぱり変わりますから、人間は。でもね、確かに言えることは、内田裕也みたいな人が夫であることで、重しにはなっているんですよ。
是枝 重し?
樹木 うん、私の重し。あの人がいなかったらもっと野放図な、困った人になっていると思うのよね。「それはありがたかったわあ」と本人に言ったら、「ああ、そうか。じゃあ、お前は幸せなんだな」と。「ええ、幸せですよ。そちらはどうですか?」「俺だって幸せなんだ」って(笑)。
・・・フリーペーパー『風とロック』の中にも出てくる話なのだが、新築した家を内田裕也さんが見て、
「何で俺の部屋には風呂がないんだ」
と怒ったらしい。そのときの希林さんの返しが素晴らしい。
「ロックはシャワーでしょう」
裕也さんは納得せず、
「ロックだって風呂につかりたいときはあるだろう」
「いや、ロックが湯船につかっちゃダメでしょう」
こういう話をするときの希林さんは森繫さんのときと同様に声色まで真似して、夫婦のやりとりを一人二役で再現してくれる。
希林さんが「お祝いのお花は一切お断りします」と受賞後のインタビューで話されたというのを耳にすると、
「そんなこと言ったら花屋が可哀想だろう。花屋だって商売なんだから、黙ってもらっとけ」と裕也さん。
「そういうところはあの人のほうが常識があるのよ」とフォローする。
インタビューの中でも触れた岸田森さんに関する質問に対しては、
「それだけはちょっと……」
と、珍しく言葉を濁し、
「内田が嫌がるのよ。自分と出会う前の話をするのは……」
そう言ったときの希林さんの表情はどこかうっとりとした、乙女のようなはにかみがあって、こちらが思わず気恥ずかしくなるほどだった。