あきらめないでがんばれる

宇野昌磨の軌跡 泣き虫だった小学生が世界屈指の表現者になるまで

 12,13歳の頃のインタビュー、こんなにまっすぐな感じってすごいなぁと思いました。

 浅田真央さんの本にも、引退後の言葉として「すごく難しかった時期も、自分の人生にはあったんですけれども、あきらめなかったことが、自分を強くしてくれたと思います。私はずっと、あきらめない気持ちだけをもって進んできました。これからの人生も同じだと思います。・・・」とありました。

 

P34

「僕の一番いいところは、たぶんジャンプでも、表現でもないと思う。

 これは浅田真央ちゃんをずっと見ていて、大切なんだなって気づいたことなんですけれど……練習でどんなにミスしても、『うまくいかないから、もう練習やる気ない!』って態度だけは、絶対見せないようにしてる、そのことなんです。

 真央ちゃんはどんなにいっぱい失敗しても、絶対にあきらめないで、いつも最後までちゃんと練習していた。それを見て、僕も見習うようにしたんです。もちろん試合であきらめないことも大事だけれど、毎日の練習をあきらめないでできなかったら、試合でもきっとできない。だから練習から!毎日最後まで、手を抜かないで練習して、試合でもおんなじことができるように。そのために、がんばっています。『あきらめないでがんばれる』、それが一応、僕のいいところ、かなあ。

 ・・・

 12歳の彼に会った同じ日、樋口美穂子コーチは楽しそうに昌磨のことを話してくれた。・・・

「昌磨は人間的には、すごい努力家。私も尊敬しちゃうくらいの努力家で、『あきらめない』、その気持ちはすごいと思います。たぶん男の子は、もっと身体能力のある子がたくさんいると思うんですよ。彼はそれほど力もないし、ジャンプ力があるわけでも、特別踊れるわけでもない。身体も小さいですし、超天才ってわけではない、でも、どの子よりもずっと努力をするんです。毎日毎日、泣きながら!自分ができないことが悔しいって、いっつも泣いています。

 振り付けだって、すぐには覚えられない。でも一生懸命覚えようとして、次のレッスンまでには必ずできるようにしてくる。簡単にぱぱっと覚えちゃう子は、次に私が見る時に、『あれ?私のした振り付け、こんなだったかな?』と思うことも多いんですが、昌磨は逆。なかなか覚えないのに、次のレッスンでは完璧にしてくるんです。

 そんな努力は本当に小さいころから変わりません。ただただ努力でここまで来るなんて、なかなかできないこと。努力できることも才能のひとつなのかな、と昌磨を見ていると思いますね」

 

P51

 ・・・13歳の昌磨が話してくれたこんなエピソードもまた、印象に残っている。

「僕は、努力家?うーん、練習をがんばること、努力することは……苦しいです。でも苦しいけれど、練習すればそれなりに、うれしいことも返ってくるから。努力した分だけ、ご褒美がもらえる。『練習したから、このジャンプが跳べた』とか、『練習したから、いい成績が残せた』とか、そんなことが今までもいっぱいあったから、だから努力できるんだと思います。・・・

 ・・・

 練習でよく泣いてるって、みんなが言ってますか?最近は、あんまり泣いてないと思うけどなあ。・・・昨日は跳べたのに、今日は跳べない、とか・・・そういう時は悔しくて泣けてくるんです。やっぱり負けず嫌いだからかな」

 ・・・

「僕は、負けず嫌い。でも試合では……他の人にじゃなくて、『自分に』負けず嫌い。試合の時だけは、自分との勝負になります。・・・だから試合でいい成績を残すことも大事だけれど、一番は自分が満足するいい演技をすること。そこが一番、『自分との戦い』になります。・・・」