ダメなときほど運はたまる

ダメなときほど運はたまる ~だれでも「運のいい人」になれる50のヒント~ (廣済堂新書)

 萩本欽一さんの、運についてのお話。興味深く読みました。

 

P102

 いい運を引き寄せるには、言葉がとっても大事なんです。・・・

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「君、ちょっとこの仕事やってくれないか?」

 と言われたとき、・・・

「ぜひやらせてください」っていう言葉で引き受けると、人間関係も仕事もぜったいうまくいく。でも、すごくいやなときに「それ、やりたかったんです!」なんて無理して言うと、相手にも「ウソっぽいな」って見抜かれちゃいます。

 ちょっといやだな、ぐらいのときは「ぜーんぜん大丈夫です」って軽い言葉で返すと、運の神様が喜ぶの。

 微妙でしょ?でもこの微妙な差で、運はかなり左右されちゃう。だから僕、一緒に仕事をする人は顔を見て、言葉を聞いて選んでいます。

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 大人になって成功する人は、若者を惹きつけるいい言葉を持っています。・・・

 高校時代にも、忘れられない思い出があります。このころ僕の家は税務署が差し押さえにくるほどお金に困っていたので、いろいろなアルバイトをして家計を助けながら自分の学費を出していたんです。

 甘納豆屋さんでアルバイトをしていたある日のこと、自転車で甘納豆を配達に行く途中、うしろに積んでいた荷物で横を走っていた車を傷つけちゃいました。

 僕はぜんぜん気がつかなかったんですけど、うしろからパンパンッてクラクションを鳴らされたので止まったら、車から降りてきたおじさんが、車にできた引っかき傷を指さして言うんです。

「見ろ、これお前がやったんだぞ」

「すいません、でも僕、気がつかなかったんです」

「名前は?」

「言えません。僕、高校生で、今はアルバイトの途中なんです」

「じゃあアルバイト先の名前を言え」

「言えません。僕の時給二七〇円なんです。母親を助けようと思って働いてるので、これを弁償することになったら母親が泣きます。アルバイト先の会社も、時給二七〇円で雇ってるアルバイトの弁償金を払うことになったら大変だと思います。だからおじさん、名前とか会社とか聞かないで、僕がおじさんの会社で働けばいいんじゃないの?僕、一年でも二年でもおじさんの会社で働いて、車を傷つけた分のお金を返します」

 そう言ったらおじさん、スッと背筋を伸ばして僕に頭を下げたんです。

「すまん。君の言ってることは正しい。俺もアルバイトから始めて、今こうやって車に乗れるようになったんだ。そのことをすっかり忘れていたよ。怒ってすまなかったな。君、学校を卒業したあと、もしよかったらうちの会社にきてくれ」

 僕に名刺を手渡して、おじさんはブワ~ンと去っていきました。呆気にとられて見送ったあと、泣いちゃった。かっこいいなあ、僕もああいう人になりたい!・・・僕にはお手本になった人だった。一生の恩人です。

 ところが、やっぱり僕はおバカちゃんでしたね。そんなに大事な恩人がくれた名刺、失くしちゃったの。・・・会ってお礼が言いたい、そう思って、テレビに出るようになってから何度もこの話をしたんですけど、なかなか名乗り出てくれませんでした。

 でもね、僕が「テレビをやめる」って宣言したとき、初めて手紙をくれたんです。

「あなたが『この人に会いたい、僕の人生の恩人である』と、いろいろなところで言ってくれたことは人づてに聞いていたけれど、私などが名乗り出るものではないと思って連絡しなかった。でもこのたびテレビをやめると聞いたので、一言『ご苦労さま』と伝えたくて……」

 そんな手紙でした。とてつもなく粋な人でしょ?その後、再会も叶ったんですが、昔会ったときのまんま、素敵なおじさんでした。