自分の価値観の外に出る

仕事にしばられない生き方 (小学館新書)

 つくづく大事なことで、まったくその通りと思いながら読んだ所です。

 

P209

 転ばないと、人間って学ばないですから。

 しくじって、痛い目にあったからこそ、二度とそういうことにならないように用心深くなるし、ちょっとやそっとのことじゃ、くじけなくなる。

 だからといって、自分の経験を苦労話とか美談にするつもりはなくて、若くて経験値が低い頃は、どうしたって過剰な理想を描きがちだと思うんです。失敗すれば、失敗しただけ、なんだ、自分はやろうと思えばなんでもできるくらいに思っていたけど、そういうわけにはいかないんだなってことや、アイツ、あんなことで失敗して、バカなヤツだと思っていたけど、いやいや、うっかりすると自分も同じことになっていたかもしれないってことが、ごく当たり前のこととして腑に落ちるようになる。

 要するに失敗して何がいちばんよかったって、単に自分自身の経験値が上がるというだけじゃなくて、怖い思いをしたぶん、自分以外の人間のことを、簡単に見くびったり、バカにしたりはできなくなるってことだと思うんですよ。

 相手のことが理解できないまでも、たぶん何か事情があるんだろうなって、察することは少しずつできるようになる。そういう意味でも、頭で考えている価値観の外に出るというのは、本当に大事だなと思うし、結局それが生きていくってことじゃないかと思うのです。

 自分の思い込みを、自分で壊しては、また立て直し、また壊しては、立て直していく。それを繰り返すことで、自分自身も更新されるし、目の前の世界も、どんどん、新しく開けていく。ひとつの価値観しか知らないと、その価値観の通用する範囲でしか生きられないけれど、いや、こんな価値観もある、あんな価値観もあると広く知っていくことで、世の中っていうのは、いろんな人たちがそれぞれの事情を抱えながら生きているんだってことが、本当に身に染みてわかってくるんだと思うんです。

 そして、それがわかってくると、もっと知りたい、もっと広い世界を見てみたいって、チャレンジ精神が湧いてくる。生きていくことが面白くなっていくんだと思うんですよ。

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 人間というものは、自分の価値観がすべてだと思い込んでいるうちは、それ以外の価値観は間違っていると思うから、とにかくエラそうになるし、ヘタをすると、自分が傲慢になっていることさえ気づけません。若く未熟な人間ほど、根拠のない自信があり、どこまでも傲慢になれるのは、そういうわけです。

 なんとかして相手に、自分の価値観の正しさをわからせようと思い、一方的に説得を試みたり、そうすることがいいことだと信じて、相手のことを変えようとしたりする。それでも相手が変わらないと、どうしようもないバカだと呆れて、怒り出したり、挙句の果てに、力ずくでわからせようと思って、ケンカをふっかけたりする。

 戦争がなぜ起こるかといったら、こういうことが国レベルで起こるからです。

 自分の価値観の外に出て、自分以外の価値観を知っていくことは、おおげさな言い方ではなく、世界平和に繋がるとさえ思うのです。