耳を澄ませば世界は広がる

耳を澄ませば世界は広がる (集英社新書)

 素敵なタイトルの本。ヴァイオリニストの川畠成道さんのエッセイです。

 クラシック音楽に疎いので、これを読んで初めて知って、YouTubeで演奏を聴きました。ああ、この音色好きだな・・・と思いました。

 

P181

 視力に障害を負ってからもう三十年以上経ち、見えないことは私にとってもはや当たり前のこととなりましたが、八歳の時まで「見えていた」自分のことを振り返ってみると、「聞く」ということには「見る」ことにはないものがあるように思います。

 本文でも触れましたが、「聞く」ということはふたつに分けることができるでしょう。ひとつは、周りにある音や声を聞く。この中には人の意見を聞くということも含まれます。もうひとつは、自分の中にある声に耳を傾けるということです。このふたつめの「聞く」ことが「見る」だけではなかなか意識できないもの、自分自身の心の奥深くにあるものを知る力になるのではないでしょうか。

 これまでの私の人生の節目で何かを決める時に、いつもこの「聞く力」が自分の進むべき方向を教えてくれました。

 たとえば、十代の頃に「このままヴァイオリンを続けていっていいのか」と悩んだ時。日本で音楽学校を卒業した後、海外に出て勉強するか、それとも日本にとどまるかを考えた時。そしてデビューしてから忙しさに追われて、自分の演奏を見失いそうになった時。それぞれのタイミングで、自分の心の声に耳を澄ませた時に聞こえてきたものに私は従ってきました。

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 たまたま私は視力に障害があるので、「聞く力」に頼る部分が圧倒的に大きいと言えるかもしれません。しかし、置かれている環境は違っても、人生の重要な局面において、自分の心の声に耳を傾けるということは、誰にとっても大事なのではないかと思います。

 これも音楽を勉強してきた中で学んできたことですが、誰かが非常に素晴らしい演奏をしたからといって、それを模倣するというのでは、それは自分の表現にはなりません。自分自身の演奏をするには、自分がどう表現したいのか、それに忠実でなくてはならないのです。そのためには、「自分を聞く」という力を培うことが必要です。「音楽」という言葉は、たぶん「人生」にも置き換えられるのではないでしょうか。

 


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