直観の声

超人の秘密:エクストリームスポーツとフロー体験

 興味深いことばかりです。

 

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「ボイス」―「直観の声」―は、ゾーンをめぐる謎の中心にあるものだ。フローの経験がある人はみな、このボイスを聞いている。・・・

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 ポッターは、並ぶもののないクライマーとしてのキャリアを通して、ずっとボイスに耳を傾けてきた。ポッターのクライマーとしての評価を決めているのは、スピードと大胆さだ。・・・

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パタゴニアに行ったのは、自分の直観を磨くため―つまり、ボイスに耳を傾けるためだ。それに実際に波長を合わせると、深いゾーンに入る。自分が完全に消え去り、岩とひとつになれる境地にたどりつく。時間の流れは遅くなり、感覚は信じられないほど鋭くなる。そしてあの一体感が、あの体全体が宇宙と精神的につながる感覚がやってくる。そこに到達するには、自分の命を危険にさらす必要があったけれど、目的は達成できた。だからこそ、私は山に登る。そういう体験がどうしてもしたい。岩の上に立つために登っているわけじゃないのは確かだ」 ・・・

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 二〇〇三年、ベースジャンプのトレーニングを始めてからおよそ一年という時期に、ポッターは何人かの友人とともに、メキシコの「スワローズ洞窟」でベースジャンプをするチャンスを得た。・・・

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 ポッターのグループはこの洞窟で二日にわたってベースジャンプをした。二日めの終わりには、誰もがすっかり疲れ切っていたが、ポッターは最後にもう一回やろうと決めた。「やるべきじゃなかった」とポッターは言う。「それまで何度も、ジャンプしては装備を身につけるという繰り返しで、疲れ切っていたし、ほとんど丸一日具合も悪かった。いやな予感もした。ばかなことをしたよ。そういうサインを全部無視してしまったんだ」

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 ポッターが助かったのは、フローの奇妙な特徴として知られているふたつめの要素、つまり時間認識の大きな変化のおかげだった。「何もかもが超スローモーションだった。友達が上から叫んでいるアドバイスを聞く。それについて考えて、パラシュートの向きを変える。またアドバイスを聞く。オレンジ色のロープを見て、それが何かを理解する。それを握って、ぶら下がろうとする。でも持ちこたえられない。友達がさらに指示する声を聞いて、もう一度頑張る。それだけのことをする時間があったんだ。やることはたくさんあったし、聞こえてくる言葉もそれなりに長く、複雑だったけれど、すべてがゆっくりと起こっていた。すべての情報を処理して、正しく判断できた」

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 頭に覆い被さっていたパラシュートをどうにか外すと、そこはスワロー洞窟の底だった。頭上では友人たちが、ポッターを救出しようと走り回っている。ポッターは、そんな彼らのことは気にしていなかった。体へのダメージは大きかったが、それにも気づいていなかった。その代わり、彼の関心は、その傍らの地面だけに向けられていた。そこには、翼の折れた小さなアマツバメが死にかけていた。

 ポッターは反射的にその鳥を拾い上げて、ずたずたに裂けた手のひらで包み込んだ。一瞬にして「つながり」ができあがった。ポッターは、自分とアマツバメの身体が触れあうやいなや、強烈な心理的統合を感じた。まるで、ポッターの意識がアマツバメの意識と同化したかのようだった。その瞬間、彼らはふたつの傷ついた生き物ではなかった。ひとつのより強い動物になっていたのである。

「信じられない話だろうね」とポッターは言う。「でも、あの経験はとても強烈で、あのつながりは紛れもなく本物だった。あそこに座って、死んでいくあの鳥を手のひらにくるんでいた。あの鳥が死んだとき、自分も一緒に死んだんだ。比喩として言っているわけではなくて、自分はあの死んだ鳥になったという意味だ」

 ポッターの経験は信じがたいかもしれないが、これに似た話はエクストリームスポーツの世界ではそれほど珍しくない。サーファーはよく、波とひとつになった話をする。スノーボーダーは山とひとつになると言う。プロカヤッカーであるサム・ドレヴォは、次のように言っている。「それは、透明さと直観と努力と集中といったものがすべてひとつになって、私をより高い意識レベルへと持ち上げてくれる、そんな場所にたどり着いた感じだった。そのレベルでは私はもう私ではない。その川の一部なんだ」。実を言えばポッターも、スワロー洞窟よりもずっと以前から、そうした感覚を知っていた。あの「宇宙との精神的つながり」を追いかけてパタゴニアに行ったときに、ポッターが強く望んでいたのは、まさにこの経験だったのだ。