無限の本質

無限の本質―呪術師との訣別

須藤元気さんの本で時々目にした、カルロス・カスタネダの本。
読んでみました。
AMAZONの紹介文には
呪術師ドン・ファンの教えに導かれ、人生の記憶すべき出来事を収集する著者―。師との対話によって「見ること」「内的沈黙」「夢見」の技法をさらに深化させ、新たな精神世界の扉を開くカスタネダの到達点。
と、ありました。
印象に残ったところを書き留めておきます。

P83
「どうしてホルヘ・カンボスは、あんたを知ってるだなんてうそをついたのかな」語りおえて、私は言った。
「うそをついたのではない」ドン・ファンが確信に満ちた声で答えた。ホルヘ・カンボスの行為を大目に見てやれというような口ぶりだった。「やつは自分の正体を隠そうとすらしなかった。そして、おまえをいいかもだと思ってだまそうとした。だが、計画を遂行できなんだ。なぜなら、無限がやつを打ち負かしたからだ。知ってるか?やつはおまえと会ってじきに姿を消し、二度と現れなかったんだぞ。
 ホルヘ・カンボスはおまえにとって最高に重要な意味をもつ人物だった。ふたりのあいだに何があったにせよ、おまえはそこに、導きとなる青写真ともいえるものを見つけるだろう。というのは、やつはおまえの生活が形となって表れたものだからだ」
「どうして?ぼくは詐欺師なんかじゃないよ!」私は抗議した。
 ドン・ファンは笑った。私の知らない何かを知っているような笑い方だった。気がついてみると私は、自分の行動や理念や期待について長々と弁明していた。しかしながら奇妙な考えが私を駆り立てた―ある状況下においては私もホルヘ・カンボスみたいな人間になっていたかもしれないことを、自分の弁明をするのと同じ熱意をもって思いめぐらしてみろ、と。その考えはとうてい受けいれがたいものであり、私は全精力を傾けてそれを否定しにかかった。だが心の奥底では、たとえ自分がホルヘ・カンボスみたいな人間であろうとも、それを弁解したいと考えてはいなかった。
 私が自分のおちいったジレンマを話すと、ドン・ファンは笑いころげて何度もむせ返った。
「わしがおまえだったら、自分の内奥の声に耳を傾けるがな」彼は言った。「おまえがホルヘ・カンボスみたいな人間、要するに詐欺師だったとして、そこにどんな違いがあるというんだ!やつは安っぽい詐欺師だ。おまえのほうが念が入っている。これが、過去の出来事を順序立てて克明に語る行為がもつ力なのだ。呪術師たちがそれを行う理由は、そこにある。それによって、自分のなかに存在すると考えたことすらない何かと接触することができるのだ」
 私はすぐにそこを立ち去りたかった。ドン・ファンは私の気分を正確に読み取った。
「おまえを怒りへとあおりたてる、うわべだけの声に耳を貸すな」命令口調だった。「今後おまえを導くことになる、もっと深い声に耳を傾けるんだ、笑っている声にな。その声に耳を澄ませろ!そして一緒に笑うがいい。笑え!笑え!」
 ドン・ファンの言葉には催眠術のような効果があった。心ならずも私は笑いだした。こんなに愉快なことは初めてだった。自由な感じ、仮面をはがれた感じがした。