ガンダーラ?

幻のアフリカ納豆を追え! : そして現れた<サピエンス納豆>

 こんな場所もあるんだな、と興味深かったです。

 高野さんの本にはアフリカのいろんな国が出てきますが、民族によって、あるいは場所によって、こんなにも違うとは・・・

 

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「ここ、ほんと、いいですよね?」

「天国じゃない?」

 ブルキナの首都ワガドゥグにいるとき、竹村先輩と何度も繰り返した会話だ。

〝納豆ガンダーラ〟であるかのような夢を見ていたが、来てみると本当にガンダーラだったのだ。

 まず、食べ物がなんでも美味い。スンバラ飯やクスクス納豆チキンだけではない。

 ・・・

 しかし何と言っても私たちを虜にしたのはワガドゥグの飲み屋だ。街の至るところにあり、しかも多くは屋根があるだけのオープンエア。通りを歩いていると、ビールを注文する人、飲む人、酔っ払っている人が否応なく目に入ってくる。

 人口の過半数ムスリムなのにどうしてこんなに大らかなのか。イスラムの正装をして堂々と飲んでいる人もいて、見るだけで嬉しくなる。

 私たちがこよなく愛したのは宿のそばにあった長屋のような飲み屋街。・・・

 ・・・

 この飲み屋街は驚嘆すべきことに夕方には店を閉めてしまう。昼しか営業してない飲み屋街なんて初めて見た。午後三時を過ぎるとつまみも減るので「早く行こう」と道を急いだりした。

 もちろん、夜は夜でもっとたくさんの酒場が花開く。

 ワガドゥグは「アフリカ版・三丁目の夕日」のようだ。現代アフリカの他の都市はもっと経済発展している。ビルが雨後の筍のようにそびえ、人々はスマホを手放さず、SNSに余念がない。

 だが、ここはまだネットは黎明期程度、おかげで飲み屋でスマホをいじくるような野暮な人はいない。目抜き通りであるンクルマ通り以外はビルなんてほとんどなく、街路はすれ違う人の顔も見えないくらい暗い。他のアフリカ諸国の都市部では経済発展と引き替えに犯罪が多発化している。私たちもふだん、こんな暗い場所は絶対出歩かないが、ここは大丈夫。ある本に「自由とはビールを飲みに行く夜道」という名言があったが、それを肌で実感できる。

 現に、同じく真っ暗な屋外の飲み屋で着飾ったマダムが一人でビールのグラスを傾けているのを見たこともある。

 ブルキナ人は争いごとが嫌いで自己主張も強くないという。私たちが出会う人々も、愛想はいいが賑やかに騒いだりべたべたしたりせず、どこか飄々としている人が多い。

 ・・・ブルキナは独立以来、五回クーデターで政権が替わっているが、大統領が殺されたのは一度だけだという。

 二〇一四年には当時の大統領が(憲法で禁止されている)三選目を務めるために憲法を強引に改正しようとしたところ大人しい国民がついに立ち上がり、暴動になったことがある。国会とそれに隣接する高級ホテル、政権に関係する施設が焼き討ちにあった。

 しかし、ホテルの客は暴動が起きる前に、暴徒のみなさんから安全に屋外に誘導され無傷だったし、外国のNGOのオフィスには前もって「ここは危ないから近づかないように」と焼き討ちマップが配布された。そして、暴動の翌朝は人々が外に出て、せっせと道を掃除し、自分たちが壊したり焼いたりした物を片付けていたという。

 ムスリムとクリスチャンが和やかに同居し、一緒に酒盛りをしている姿をみると、それも納得がいく。

 私たちはすっかりこの国が好きになっていた。・・・