こんなこともいずこも同じ・・・面白いです。
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翌朝、ホテルに〝イミグレーション・オフィサー〟と称す人物がやってきた。どうやら公安警察のようだ。気むずかしそうな中年男である。
外国人はホテルにチェックインするときビザのコピーを警察に渡す決まりになっているという。それを渡すと、「何しに来た?」と訝しげな目を向ける。
「ダワダワを見に来た」と答えたら、男の態度が豹変した。
「ダワダワ!あれは素晴らしい調味料だ!」と熱く語り出したのだ。「何に入れても美味しいし、健康にもいい」などと絶賛の嵐。思わず私も顔がほころんでしまった。納豆のことになると妙に熱く語るのは日本を含めたアジアの納豆民族共通の特徴だからだ。
だがひとしきりダワダワ礼賛を終えると、公安の男はまた気むずかしげな顔に戻り、こう言った。
「でも最近の主婦はレイジー(怠け者)になった。ダワダワじゃなくてアジノモトなんかを入れる」
困ったもんだというように首を振った。
・・・
・・・彼の言い分はよくわかる。アジノモトより天然の調味料の方が美味いに決まっている。いっぽうで、「レイジーな主婦」と彼が断罪した女性たちの気持ちもよくわかる。私もその一人(主夫)だからだ。日々の家事のうち、最も時間と労力をとられるのは料理である。その過程をできるだけ簡略化したいというのは私たち、世界中の主婦(主夫)の絶えざる願いである。
このような背景から、簡便な調味料が企業の手で開発されてきた。アジノモトはその代表格だ。
・・・
いっぽう、それを批判する声は、日本はもちろんのことタイやミャンマーでも耳にする。まさかナイジェリアでも同じ意見を聞かされるとは思わなかった。
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いっぽう、一部の人はネテトウとうま味調味料を相反するものとして認識する。
ジェイナバさんはこんなことを言う。
「私はアジノモトもマギーも使わない。あれは体によくない。昔の人は健康で長生きだった。ネテトウしか食べなかったから。今の人はすぐ病気になる……」
実はアブさんも同じようなことを言っていた。「私が健康なのはナチュラルなものしか食べないからだ。アジノモトやマギー、ナイスじゃない」。自分はそういう調味料商品の宣伝活動で稼いでいるにもかかわらず。セネガルの納豆信仰は尋常ではない。
日本でもアジア諸国でも、人工的なうま味調味料は時短と味の向上、安定に欠かせない商品となっている。その一方で、一部の年配の人や味にこだわる人、「意識高い系の人」はそれを敬遠する向きがある。
ナイジェリアでもセネガルでもそれは全く同じなのだ。納豆と人工うま味調味料は激しくも微妙な綱引きを演じていた。
人間の普遍性の面白さをあらためて感じさせてくれたアフリカ納豆先進国の日々であった。