地平線の相談

地平線の相談

 面白い本でした。あとがきに細野さんがこんな風に書いています。

 

P330

 星野くんが僕に相談するという体で、『TV Bros.』の連載が始まった。それから8年ほど経った今、星野くんは大人になり、僕は前期高齢者になった。ありそうであり得ない二人の取り合わせが、この連載を長続きさせたのかもしれない。

 長く生きていれば、相談のひとつやふたつは乗れるが、星野くんの相談は延々と続いた。それはもはや相談ではなくなり、問いかけになっていった。その中で星野くんの言った言葉が今回のテーマになっていることに気がついたのだ。それは、「今、軸は年代じゃなくてそれぞれの個人にあると思う……」という件だ。この相談も、若者とオッサンの対話ではなく、個人と個人のお喋りなのである。それも日々生きていく生活の話だったり、それぞれ固有の身体感覚であったり……そういう普段は人に話さないことの連続だったりする。

 人と人の違いは、今の世の中で様々な軋轢を生んでいるけど、逆に、同じだということを共有する喜びがここにはある。星野くんと僕はかなり違う人間だけど、だからこそ同じ感覚を見つけるのは楽しいのだ。そこで感じるのは、人間という生命体の哀しくも可笑しい性癖なのかもしれない。異なる二人の個性の奥にはそういう生命活動がある、ということだ。その活動の本質には可笑しさがある。人間の不思議な特長がその可笑しさであり、それが二人の会話から漏れ出て来る。得てして、真剣な相談より日常のヨタ話に人生の味わいがあるものだ。・・・