是枝監督の、希林さんへのインタビューをまとめた本、希林さんの人間観察の視点がとても興味深く、好奇心を刺激されました。
こちらは森繫久彌さんのエピソードです。
P59
樹木 森繫さんの話、面白かったんですよ。あるとき、自分を乗せた車に自転車が突っ込んできたんだって。すかさず飛び降りて「おい、大丈夫か⁉」と声をかけたら、その子はどこかからうっすら血を出しながらも「これ、昨日買ったばっかりで……」と自転車のことを気にしているんだって（笑）。「わかった、わかった。身体は大丈夫か⁉」「いや、昨日買ったばっかりの自転車が……」って。そういうものを常に面白がる人なんです。大親友の山茶花究さんを亡くされたときも、入院先に行って「頑張れ！」って声かけたら、「ああ、繁さん」と手を出してきたんだって。それで「すごい力で俺の手をギュウっと引っ張って『一緒に行こう』って言うんだよ。いくら親友でも行くわけないだろう」って。
是枝 （笑）楽しいですね。
樹木 人間を観察する面白さというのを森繫さんには数えきれないぐらい教えてもらいました。ホームドラマってそういうのが特に必要なんじゃないかな。演じて何かというのではなく、自然と息づくようにそこにいられること。
P212
是枝 森繫さんがどこかで見かけた人を自分の番組に引っ張ってくるというのは、希林さんもそのひとりでしょうけど、結構多かったんですか？
樹木 コレ（小指）を引っ張ってくることも多かったしね（笑）。コレのときが一番面白いの。もうソワソワしちゃって。男って面白いなと思うんだけど。可愛らしいっていうか。またそういう子に限って芝居がよくない。
是枝 （笑）そこは好みに引きずられちゃうんですね。
樹木 そうそう。だから面白いなって。いつだったか、私が「コレの趣味はあまりよくなかったわね」と言ったら、森繫さんが「いや、実はすごいのがいたんだよ」って。「アタシの男ぶりで負けたんじゃないんだ。金で負けたんだ」と。森繫さんが金で負けるような人って誰かなと思ったら、「うーん……田中角栄」って（笑）。
是枝 ホント？
樹木 うん、直接聞いたから。「男ぶりで負けたんじゃないんだ」と言い張り、「あれはいいオンナだった」と自慢していた。もう可愛らしいったらありゃしない。
